荻生椿

読書時間

『日本思想史大系第36 荻生徂徠』(1973年)の月報31に石川淳が「荻生椿」を書いていた。石川淳が月報に書いていたことは覚えていたが、本体と関係なさそうなので読み飛ばしていた。

「江戸青山に種樹を業とする繁亭金太といふものあり、「草木奇品家雅見」天地人三冊を編む」と始まり、本の中の「御府内近郷の好人」に荻生加慶字子彦に目が止まる。この人物が荻生氏の末なるか、人名辞書に見えず。著者は三田に浄土宗長松寺を訪ね過去帳を調べた。先の座談会で加藤周一が「(石川淳が)原文で読まないことはひとつもいっていないです。」というのを思い出す。

石川淳は過去帳を調べたが、傍証を得ることができず振出に戻って文政の植木屋の本を読んでいる。「荻生むるいつばき」という斑入りの椿の名前を見つける。しかし、荻生家との関連は見当たらない。染井の種樹家花屋伊兵衛について、植木屋を花屋と呼んだのは染井に限ってのことと蘊蓄を披露した後、「加慶字子彦の傳については、不明にはじまつて今のところまだ不明のままである」と終わる。我々は江戸の種樹家の文化を垣間見るのだった。

注)「荻生椿」は『石川淳選集』第14巻、『石川淳全集』第16巻に収録されている。

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