『熊野詣』(2004)

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五来重『熊野詣 三山信仰と文化』講談社学術文庫、2004年、2011年第10刷

五来重(ごらい しげる)の語る熊野は謎の国、神秘の国であり、「死者の国」である。熊野は山も海も「死者の国」である。

“私はあえて熊野を「死者の国」とよぶ。それは宗教学的にいえば、死者の霊魂のあつまる他界信仰の霊場だったからである。これが熊野の謎をとく秘鑰であって、三山信仰の秘密も、熊野詣の謎もこれによってとかれるだろう、熊野は紀州ばかりでなく、出雲にもある。しかしこれも一方から他方へ移ったというのではなく、死者の霊魂が山ふかくかくれこもるところはすべて「くまの」とよぶにふさわしい。”

五来重は熊野三山の信仰と文化を宗教史と文化史の立場からあたらしく見直し、そのうえ視点を熊野と庶民の関係においてこの小著を作ったと断っている。

だから五来重が怒っているのは庶民の視点を持たない論者についてである。

“ただ私は熊野詣でといえば御幸の数だけをとりあげ、熊野文化といえば貴族ののこした遺物だけをかたることには、我慢がならない。むかしも今も熊野は庶民のためにあるのだし、庶民の涙と汗が熊野街道にはしみこんでいる。おそらく貴紳の熊野詣も、庶民の熊野詣の流行に刺激されておこったのだとおもう。”

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