充たされた永遠の夕暮
高橋英夫の本は持っていないが、吉田健一著『絵空ごと・百鬼の会』(講談社文芸文庫、1991年)に表題の解説を書いていた。
「吉田健一の時間感覚でことに目立っているのは、華やかに明るい夕暮が無限に続いているような個所である。その時の刻みはアンダンテというよりもアダージョのテンポだ。そうした時間の中にひたっている人々は心身ともに豊かに充たされている。聖なる永遠の夕暮の光とでもいいたい光を浴びて、世界の充溢を全身で受けとめている彼らの精神には、またどこかに滅びゆくもの、傾きゆくものの風格も漂っているというふうに言えるだろう」(P260)。
吉田健一が「時間」を論じたものを色々と読んできたが、吉田健一の時間感覚をAndante(歩くような速さで)よりもAdagio(ゆっくりと)のテンポだというのは高橋英夫くらいであろう。高橋英夫が『琥珀の夜から朝の光へ 吉田健一逍遥』(新潮社、1994年)を書いたのを書評で見たことがあったが、その本は目に付かずに手に取ることがなかった。吉田健一の書を書斎に掛けていたほどだからよほど敬愛していたのだろう。
#吉田健一
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