森浩一『古代史おさらい帖―考古学・古代学課題ノート』筑摩書房、2007年、2009年第3刷
(参考)
森浩一『古代史おさらい帖: 考古学・古代学課題ノート』ちくま学芸文庫、2011年
私はちくま学芸文庫版があるのを知らなかったので、東京堂書店で他の本を買うときにたまたま目にしたので単行本を買い求めたけど、老眼には単行本でよいと思っている。
森浩一『京都の歴史を足元からさぐる [嵯峨・嵐山・花園・松尾の巻]』(学生社、2009年)を読み直していて『古代史おさらい帖』が気になっていたので、ついで買いして正解だった。
『古代史おさらい帖』というタイトルの趣旨を著者は「はじめに」で以下のように言っている。「入門書とはいえ、既成の学問成果を列挙するだけではなく、一見学問の成果(到達点)のようにみえる事柄についても、その問題点を列挙しておさらいすることが本当の入門書になるように思える」。
「あとがき」で著者は「入門とは人に伝授するに足る不動の学問が築きあげられたときに使える言葉とぼくはみる」と言っており、「ぼくのようにくる日もくる日も、あれこれの事を頭のなかで反芻している者にとっては「おさらい」することはできても入門の伝授はできず、この題名が自然に湧いてきた」という。
「おさらい」とは復習とか芸事の「温習」という意味を持つ。ここでは著者が考古学・古代学の課題について考えてきたことを師匠みずからテーマ毎に振り返ってみたのである。
テーマは大きく3つありそれぞれが章だてされている。
第一章 土地の見方
第二章 年代の見方
第三章「人」の見方
第一章を「貝の交易」から始めている。「中国の歴史書に「倭人」が登場しだすのは、子安貝を中国にもたらすのが倭人だったからだとする江上波夫の説」をあげて、「江上氏をしても生涯をかけて、死の直前になってやっと満足すべき解釈に至られたことを物語っている」としたのが印象深い。学問の姿勢を言っている。
第二章では、「埼玉稲荷山古墳の剣の銘文中に「獲加多支鹵大王」が刻まれていることが知られだすと、江田船山古墳の刀の銘文が再検討されることになり「獲□□□鹵大王」と読んだほうがよいと修正された」。従来は江田船山古墳の刀の銘文を「蝮□□□歯大王」と読み、多治比宮の反正天皇と解釈してきた。「定説といわれていたことでも根拠の脆弱な場合のあることを物語っている」とした。
第三章では、原典を読むことの重要性を教えられる。「今日では邪馬台国とか卑弥呼は現代日本人の常識となったといえるほどよく口にされる。だがそれらの原典である倭人伝をきちんと読んだ人となるとわずかである。さらに読んだ人でも倭人伝の部分だけを集めた本でしか見ておらず、『魏志』全体、せめて倭人伝(正しくは倭人条)を含めての東夷伝を通読した人はさらに少ない」と言う。
著者の『倭人伝を読みなおす』(ちくま新書、2010年)を読んだときに白文の倭人条を私も始めて読んだ。そして読めないことが分かったことを思い出した。
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