鴨長明、久保田淳訳注『無名抄 現代語訳付き』角川ソフィア文庫、2013年
『無名抄』は鴨長明の歌学書や歌論書と思っていたが、久保田淳氏は解説で「硬質な歌論書的部分と肩のこらない随想的乃至は説話的部分とがないまぜになっている作品」であるとし「それは歌論書というよりむしろ和歌随筆または歌話とでも呼ぶほうがふさわしいとすら思われる」と書いている。
『無名抄』が読み継がれてきたのは、歌論書だけではないことの証であろう。巻頭の「題の心」からしばらく読むと歌論書かと思うが、「ますほのすすき」は登蓮法師に関する数寄のエピソードだし、続く「井出の山吹並びに蛙」では「人の数寄と情とは年月に添へて衰へゆくゆゑなり」と登蓮法師の数寄と比べて嘆いている話だ。
鴨長明の生年は確定しておらず、「久寿2年頃生」(1155)であり、健保4年(1216)閏6月8日(一説に9日あるいは10日)没とある。『無名抄』『発心集』『方丈記』の書かれた時期も議論がある。
下鴨神社の摂社である河合神社の禰宜になれずに世に背いた鴨長明の方丈を、方丈記800年記念事業の1つとして河合神社で再現し境内に設置している。皮肉を感じざるを得ない。
俊恵の秀歌
み吉野の山かき曇り雪降ればふもとの里はうちしぐれつつ
和泉式部
津の国のこやとも人をいふべきに隙こそなけれ蘆の八重葺き
鴨長明
石川や瀬見の小川の清ければ月も流れをたづねてぞ澄む
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