『天下泰平』(2002)を読み直す

読書時間

横田冬彦『日本の歴史16 天下泰平』講談社学術文庫、2009年、2014年第3刷

書誌情報

2002年に刊行されたものを文庫化した。
年表、参考文献、索引がある。

以前、子安宣邦先生が、江戸初期の知のネットワークの話をしてくれた時に、買い求めて関係するところを読んだことがある。

戦国期のものは研究者の書いた一般書を読むこともあって面白いが、中村幸彦『戯作論』(角川選書クラシックス、2025年復刊)の歴史叙述に大いに刺激を受けて、また、古文書を読む気力が湧いてきた。古文書を通して時代を知るのは迂遠なので、時代叙述の優れた本を読むほうが好みに合っている。

中村幸彦が「江戸時代三百年を、政治上経済上その他あらゆる社会面に於いて、史的に区劃すべき二つの時期がある。享保と寛政、この二期の間にわたる五、六十年の、前を宝暦明和期、後を安永天明期と呼ぶ」(同上書、p.32)と書いていて、戯作発生の時期であり、「最も江戸時代的な社会」(同上)であったと言う。「江戸の春」と言う人もいたと言う。

歴史年表で調べてみると、

享保(1716年〜1736年)の後に続く、元文(1736年〜1741年)、寛保(1741年〜1744年)、延享(1744年〜1748年)、寛延(1748年〜1751年)は除かれている。

第8代将軍徳川吉宗の将軍在位(1716年〜1745年)、と第9代将軍徳川家重の将軍在位1745年〜1760年)が享保の改革を引きずっている関係がありそうだ。

宝暦明和期(1751年〜1772年)
安永天明期(1772年〜1789年)
寛政(1789年〜1801年)

第10代将軍徳川家治の将軍在位(1760年〜1786年)、第11代徳川家斉の将軍在位(1787年〜1837年)のうちやはり第10代将軍の徳川家治の治世がほぼ重なっていることがわかる。

さて、本書は江戸初期のまだ戦国期の気分が残っている時代が終わり「天下泰平」を謳う時代である。序章から「天下泰平」の時代である。書物の時代でもある。書物の話から始まる。『大阪物語』という仮名草子のことは以前も書いた。横田冬彦氏は「江戸時代は、その初発から〈書物の時代〉、情報と知が大衆化されてゆく時代でもあることが予告されたのである」(p.12)と書いている。

しかし、著者の学術文庫版あとがきにあるように、徳川武家国家が島原の乱で原城に籠城した百姓等を「土人」として容赦なく殺戮し、宗門改を行い、「キリシタン類族改令」(p.310)や「賎民(穢多・非人などとよびれた)の別帳化」(p.312)により身分構造を定めたことを挙げ、「近世社会がその成立に際して「土人」殲滅の歴史的経験を持ったことは、そうした身分構造が新たな段階に入ったことを意味する。そしておそらく、私たちも何らかの意味でその負の遺産を継承している」(p.378)という指摘は考えさせられる。

第七章は開けゆく書物の世界である。河内の前句付のネットワークについては前も書いたが、庄屋を勤めた河内屋可正(こうちやかしよう)の『河内屋可正旧記』を読みながら、大阪の陣の記憶が強く残る元和偃武以降元禄までの書物の世界が語られる。徳川の平和とは何であったのかを考えないでは済まされない。

関連:『日本の歴史16 天下泰平』(2009)

『日本の歴史16 天下泰平』(2009)
横田冬彦『日本の歴史16 天下泰平』講談社学術文庫、2009年、2014年第3刷序章「天下泰平」の時代早稲田の研究会で子安宣邦先生があげられていた本だ。序章「天下泰平」の時代は古活字版『大坂物語』から始まる。横田冬彦氏は「この書に刊記はない...

コメント

タイトルとURLをコピーしました