横田冬彦『日本の歴史16 天下泰平』講談社学術文庫、2009年、2014年第3刷
序章「天下泰平」の時代
早稲田の研究会で子安宣邦先生があげられていた本だ。序章「天下泰平」の時代は古活字版『大坂物語』から始まる。横田冬彦氏は「この書に刊記はないが、冬の陣講和から一ヵ月もたたない慶長二十年正月頃の刊行であることを明らかにしたのは、川瀬一馬氏である」という。そして、「これはまだ古活字本であってそれほど大量に作られたわけではないが、その速報性から、中村幸彦氏は「出版ジャーナリズム性を日本で最初に示した書物」「報道文学」という」と書いている。近世初頭に「出版物による宣伝戦」が始まったというのである。著者は「江戸時代は、その初発から<書物の時代>、情報と知が大衆化されてゆく時代でもあることが予告されたのである」と結ぶ。
「知のネットワーク」
このあと子安先生は「知のネットワーク」の話をしたのだった。「富の集積は知の集積」だという。それは端的に言えば、最終の第七章 開ゆく書物の世界で三田家を見ていくことになる。豊臣方出身の三田家が蔵書を処分する話が出てくる。この三田家旧蔵書籍目録によって、大坂周辺の在郷商人が蓄えた知が見えてくるのだ。近世初頭に商人によって富と知が蓄えられていたのだった。
蔵書目録
蔵書目録という形が現れるのは享保頃と著者はいう。貴族と僧侶が独占していた知が大衆化した証拠だろう。蔵書を入れた棹ごと本屋が入札して買い取ったというのは三田家の話だった。本に価値があった時代でもある。私の本棚など、そのままゴミにされそうなので、流通システムに出したり、寄付したりしてきた結果、残ったのは私にだけ意味がある紙屑と献本など縁があり処分に躊躇する本である。市場に出回るのは本人の代わりに家族が処理した結果だろう。週末に若者がきて処理のことを考えてくれるので私はもう何も言うまい。
江戸初期の知のネットワーク
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