『極楽一丁目』(1972)

Goinkyodo通信 読書時間

山手樹一郎『極楽一丁目』東京文藝社、1972年

昔、三島の古本屋で買った本。身が立つまで帰るなと言われた若侍(伊勢四郎)が旅で道連れになった娘(お市)等を送り届けた江戸の深川は武家虎一家によって地獄と化していた。

山手樹一郎は果てしなく読んだ。浪人、若様、姫君の活躍する娯楽時代劇である。登場人物達が交わす会話が人情の機微に届いている。

人情といっても山本周五郎の登場人物の挫折を描く暗さ、深さはない。山手樹一郎は雑誌編集者のとき、山本周五郎を担当していたという。作風が似ることはなかった。

この『極楽一丁目』は本所深川が舞台なので、池波正太郎の世界とも重なり合う。池波正太郎は小説に登場した場所をエッセイで書いているし、「鬼平情景」のような案内板が墨田区に立っている。『剣客商売』で「深川十万坪」と書けば広大な土地が見えるようだ。

『江戸名物からす堂』なら神田川沿いの土手だとか、誰かが小説の舞台を歩いて書いていると思うが、知る術もない。山手樹一郎ファンはそんなことをしないのだろうか。桃太郎侍が飲む居酒屋を覚えている人はいないと思うが、鬼平が軍鶏鍋を食べる五鉄を覚えている人は多いに違いない。

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