河内将芳『日蓮宗と戦国京都』淡交社、2013年
河内将芳氏はどのような視点で『日蓮宗と戦国京都』を書いたのだろうか。今谷明氏の『天文法華一揆〜武装する町衆』(洋泉社MC新書、2009年)を読んでいるので山門と法華宗の対立を描く以上のことが期待される。
本能寺の変を考えるにあたり、「そもそも信長や信忠は、なぜ本能寺や妙覚寺にいたのであろうか」(P14)という問いに推測以外の答えはないことが予想される。その推測にどこまで蓋然性が高い説得力を与えられるか。
「この時期の京都における法華宗や日蓮宗の歴史をかえりみることなく、その実際に近づくのがむずかしいことはあきらかといえる。本書の目的は、信長の時代をふくめた戦国時代の京都における法華宗や日蓮宗の歴史について、主に古文書や古記録など、できるかぎり当時の人々によって記された史料、すなわち同時代の文献史料でもって歴史を考える歴史学(文献史学)の手法によりみていこうと試みるものである」(P15)。
法華宗や日蓮宗が京都で既存の宗教勢力や世俗権力とどのような関係にあったかをみていくことは、信長の視点を考える際にも重要なことであることは分かる。しかし、テーマの抽象度が上ると結論も抽象的になることが予想され、個々の意思決定の問題との関係を考えるのが難しくなる。
参考文献をちらちら眺めていたら、湯浅治久『戦国仏教ー中世社会と日蓮宗ー』(中公新書、2009年)があった。鎌倉仏教から戦国仏教という視点も興味がある。この本も箱の中に入っているらしく、暮れまでは探せない。Amazonでポチするのを我慢して、本書を読む戦略を立てる。
目次
第一章 題目の巷へ 南北朝・室町時代
第二章 戦国仏教へ 室町時代から戦国時代
第三章 天文法華の乱 戦国時代
第四章 十六本山会合の成立と展開 戦国時代から信長の時代
おわりに 附 本能寺の変と秀吉の時代
目次から判断するに、私の興味によって、おわりにから第四章へ遡るのがよいかとが分かる。
おわりにでは、本能寺の変が扱われるが、この本能寺の変は史料が検討され尽くしているので、最近読んだ『宿所の変遷からみる 信長と京都』(2018年)と変わってはいない。
第四章は先行研究では扱われていなかった『京都十六本山会合用書類』が1982年に発見されたことが大きい。日蓮宗(著者は便宜上、法華宗と日蓮宗を分けずに使っている。日蓮宗を宗祖日蓮の宗教を継承する教団全体の意で使うと断っている。P19)が天文法華の乱の後、その社会的地位を上げ、武装的闘争に訴えずに戦国京都を生き抜いてきたことを活写していた。
本書の趣旨を著者がまとめている。
「これまでの研究では手薄であった、天文法華の乱と安土宗論のあいだにあたる時期の歴史をできるだけ具体的にうきぼりにしていくことをとおして、その前後の時期の歴史をとらえ直すとともに、応仁・文明の乱前後、さらにはその前の室町時代の歴史までみつめ直すことことであったといえる」(P254)。
このようなスケールを考えていたことを改めて読むと、信長が京都の宿所をどこにしたかを調べ上げる研究者の仕事がニッチにしか見えない私のような読書人には分からない世界であるといえる。
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