『保元物語』(2025)の本文以外が面白い

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栃木孝惟校注『保元物語』岩波文庫、2025年

書誌情報

新日本古典文学大系『保元物語 平治物語 承久記』(1992年、岩波書店刊)の内、栃木孝惟校注『保元物語』を文庫化したもの。

凡例(pp.3-9)によると、片仮名を平仮名に改め、振り仮名は現代仮名遣いとし、仮名遣い

は歴史的仮名遣いに統一したとある。

底本は、国立公文書館内閣文庫本半井本とある。

巻上中下にあらすじがある。これを読むだけで全体感がわかる。

語注は見開き右側の本文頁に対して、見開き左側に上下二段の注記である。

巻上中下に補注、校異一覧、人物一覧、付図、校注者解説からなる。索引はない。

校注者解説

1 王家の確執にみる書かれなかった事柄

2 為朝の巨人化と物語の時空間の拡大

3 伝本と本書の底本

3の伝本と本書の底本について、校注本を読む人なら普通は読み飛ばすことはないと思われるが、本書ではここが面白いところだ。

『保元物語』は伝本(諸本)が多い。伝本(諸本)研究の歴史から、永積安明の伝本研究以降が解説されていた。

栃木孝惟氏の長い一文であるが、メモしておく。

「昭和三十五年(一九六〇)、日本古典文学大系『保元物語』(岩波書店)の校注を担当した永積安明は、改めて『保元』諸本の収集、検討、就中、キイ・テクストとしての半井本、金刀比羅本、古活字本の細目にわたる徹底的な比較作業を行い、各類の独自な記事を通観、考察して、その独自記事がそのテクストのどのような特質を生み出しているか、各テクストの固有な特質を明らかにし、作品論的な考察を加味することによって先後関係を決定した」(pp.375-376)と栃木孝惟氏は評価している。

次に、犬井善壽氏については、「犬井の伝本研究における主たる目的は、原作『保元』の探求ではなく、「異伝本を判別して系統に分類し、系統によっては、各々の内部をさらに系列に細分する」という作業であり、永積分類の系列化を再検証しつつ、系統内の伝本のさらなる本文対比によって系統内の伝本のさらなるグループ化、そして系列内の最古出来文の確定、犬井の用語に従えば、「原型」の探求であった」(p.378)と栃木孝惟氏は評価している。

最後に、「平成二十八年(二〇一六)十一月、昭和から平成にかけての長い研究史的歳月の中で、『保元物語』諸伝本の総合的研究に力を尽くしてきた原水民樹の諸論考が、『『保元物語』系統・伝本考』(和泉書院)として一書に集成された」(p.379)と栃木孝惟氏は評価している。

『平家物語』同様に『保元物語』も伝本(諸本)が多く、「原本」は求めようがない。研究の歴史の凄まじさを感じた。作者について藤原時長と中原師梁が採り上げられていた。もちろん決め手はない。

巻上中下の補注は紙面の制約のない論考のようで面白い。本文と語注を読む前に面白いところを読んでしまったようだ。

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