藪本勝治「『吾妻鏡』冒頭部の構成とレトリック」(『紫苑』第14号、2016年)
『國語國文』の藪本勝治氏の論文が面白かったので(注1)、ネットで読める論文がないか探して読むことにした。一般の読書人は論文へのアクセスが限られるのが残念である。
『紫苑』第14号は(注2)、野口実教授退職記念号であるから、中世史家の論考が多数寄せられている。これをじっくり読むだけでも今月の自由時間がなくなりそうである。今回は藪本勝治氏の論考を読むことで満足しよう。
「稿者はこれまで、『吾妻鏡』野木宮合戦記事や静御前関係記事を取り上げ、この書物の文章が相当に高度な編集を経て成立していることを指摘してきた。『吾妻鏡』の言説は、出来事を政治的文脈に接合し、ある事件と別の事件とを因果関係で結びつけるなどしてプロットを作話する。そうした叙述操作の結果、頼朝を絶対化する物語構造や敗者の怨霊を慰撫する言説機能が付加されているのである。
『吾妻鏡』とは事実の記録である以前に、このテクストが成立した当時における現在を肯定するために、そこから振り返って系列化された幕府の〈歴史〉を語った歴史叙述であると言える」(86頁)。
この要約が、具体性をもって展開されるのを読めば、次の論考が読みたくなる。
(注1)藪本勝治「『吾妻鏡』の文脈における宝治合戦記事」(『國語國文』第90巻第7号、2021年)
「『吾妻鏡』の文脈における宝治合戦記事」を読む
藪本勝治「『吾妻鏡』の文脈における宝治合戦記事」『國語國文』第90巻第7号22-40野口実氏が史料として『吾妻鏡』を利用する前に必読の論文たちとして藪本勝治(やぶもとかつはる)氏の論文を挙げていたので(注1)、最新の論文を取り寄せて読むこと...
(注2)『紫苑』第14号、2016年、京都女子大学宗教・文化研究所ゼミナール
http://rokuhara.sakura.ne.jp/organ/sion_014.pdf
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