柏井壽『祇園白川 小堀商店 いのちのレシピ』新潮文庫、2020年
それにしても、出たばかりで、この本が続編に当たるとは気がつかなかった。本人は8月に出た本を買ったとばかり思ったいた。
解説を書いている澤木政輝氏(毎日新聞記者・京都芸術大学非常勤講師)が「生まれ育ったのは祇園町北側の東富永町で、実家は明治から五代続いたお茶屋だった」(P474)というのが面白い。道理で街の雰囲気をよく知っていて、柏井壽氏の小説の舞台を詳しく紹介できるわけだ。よく読み込んでいる。要は解説が本物なのである。そう言えるのも富永町はよく通ったところだからだ。割烹、小料理屋、スナック、祇園町北側はワインバーも行きつけだった。
柏井壽氏の語りは上手いなあ、通俗だけれど余韻がある。架空の店であっても不思議でないのが京都の奥深さだと思わせるのはにくい。今年の晩秋は割烹のカウンターで緩りと過ごしたいものだ。こないだのように日帰りは忙しなくていけない。
本書は全部で6話が462頁に収まっている。後世に残すべき秀でた料理を探索するってどこかで聴いたような話だけども、店もレシピも勿論架空の物語だ。私の好みからすれば、もう少し短くしても良いような気がする。私が気になるのは登場する料理人達の不満はなぜかステロタイプで街のリアリティーに比して現実味を感じない。私は食通と違って食べ歩きをしないので、いつもの店で食べて飲むだけだから、余計な情報が入らないからであろう。
花七軒のバーで飲んで時間待ちしている老人と話して、祇園町南側の路地を伝っていく喜びは尽きない。路地歩きは千宗室氏の『ひととき』の巻頭エッセイを読む楽しみに似ている。
注)小堀商店の設定は祇園町北側の末吉町で祇園白川の流れを見下す絶好の場所にある。割烹さか本あたりをイメージしていると思う。
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