廣野由美子『小説読解入門 『ミドルマーチ』教養講義』中公新書、2021年
書誌情報
本書は『批評理論入門』(2005年)の姉妹編だという。著者の主張は、小説をいかに読むかという方法を模索していくと、結局は、文学とは何かという問題に突き当たるというのだ。
参考文献、索引完備で廣野由美子氏が翻訳した『ミドルマーチ』1〜4(光文社古典新訳文庫、2019年〜2021年)というイギリスの地方生活を扱った小説を解読し尽くす。
「文学とは、世界のさまざまな側面を、具体的な人間の在り方の実例をとおして示しつつ、読み手の心に染み込み、変革を促すものではないだろうか。したがって、文学には、人間の生きる力の土台を形成する作用が含まれているといっで過言ではない」(Pii)。
その上で、〈教養〉を扱う意義を述べる。
「つまり、〈教養〉とはたんなる装飾ではなく、本来、それを身につけることによって、人間を元の状態から一段高いステージへと引き上げ、それまでになかった力を帯びた新たな文化的状態へと変容させるものなのである。したがって、〈教養〉の素材となる学問や芸術などの諸分野は、ひとりの人間にとって、個々ばらばらに接ぎ木されるのではなく、ひとつにつながって総合的に発展して、血肉と化さなければ、生きた力とはならない」(Pii-iii)。
本書は、イギリスの女性作家ジョージ・エリオットの『ミドルマーチーー地方生活についての研究』(1871年〜1872年)を扱う。小説技法篇と小説解読篇からなる。あらすじを読むと廣野由美子氏が深読みしたジェイン・オースチンの『高慢と偏見』(1813年)のような地方都市の人間模様が展開されている。
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