長部三郎『伝わる英語表現法』岩波新書、2001年、2021年第5刷
限定復刊という話で復刊したら、そく重版になったと岩波新書編集部のTwitterアカウントがつぶやいていた。SNSの影響力を感じる。読んでみると、日本人の発想法というものを深く理解していることがわかり、恐ろしいくらいだ。
英語と日本語の違いについては、「英語が「具体的」「説明的」「構造的」である」(19頁)という。
「具体的」とは、「地形」という言葉をtopographyとするのではなく、rivers and mountainsと言い換えることである。「説明的」とは、「選挙公約」をcampaign pledgeでなくwhat I said I would doと言うことである。「構造的」というのはわかりにくいが、英語には主語が必要で、しかも、なんでも主語にすることができるということである(注1)。
日本語の名詞の使われ方と英語の動詞の使われ方が対比されていて、日本語は抽象度の高い名詞表現になり、英語は動詞を使って具体的に表現することが説明されていた。なんか読んだことがあるような気がした。英語らしい表現とは簡単な動詞を使ったもので、big wordを使ったものではない。学生が簡単な英語と誤解する話もあり、にやりとしてしまう。
例えば、日本人は「国際情勢」という言葉をよく使う。英語で言おうとすると、international situationなどが単独で頭に浮かんだりする。その後どういう動詞が相応しいか悩んだりすることになる。
これを英語的発想でwhat’s going on in the worldというと「斬れる英語」(少し古くなったか)になる。このためには発想法の転換が必要だ。良い文章を注意して読んだり、このような本でトレーニングするしかないのだろう。
本書では、「訳す」のではなく「伝える」という観点からCollins COBUILDの英英辞典が推薦されていた。2,500語を使って言葉が説明されるので、学習者向けには少し高度であることには変わらない。高校の時から英英辞典を使ってきたが、辞書が引けるようになったのは大学に入ったくらいだった。文法知識や語彙がないと名詞的な発想で英語を考えてしまう。フランス語では難解な文章は名詞表現であり、英語もそれに引きずられて切れない英語になっていたようだ。だから、松本道弘氏の本が当時は眩しかった(注2)。
英語は日本語と異なる言語であるという認識がないと、wordと言葉の意味が1対1であると錯覚しがちになる。自分のスキーマから引き出して解釈するので、なかなかスキーマが修正されにくいのだ。これについては牧野髙吉『日本人が知らない英語のニュアンス』(角川ソフィア文庫、2021年)を通勤時間に読んでいるので、今まで以上に違いが気になっている。
あとがきを読むと、著者の長部三郎(おさべ さぶろう)氏は米国国務省で日本語通訳担当の嘱託としてワシントンに1964年から6年間勤務したとある。鍛えられ方が違う。終章の体験的英語教育も納得がいく。このような良著が復刊されたことは悦ばしいことだ。読む、聞くだけの英語では満足できない人にお勧めしたい。
(注1)この訓練は篠田錦策、佐々木髙政『和文英訳十二講』(洛陽社、1954年、1968年改訂版、2009年改訂版)の第1講 主語の選び方でやっていた。
(注2)「斬れる英語」というものを知ったのは松本道弘『giveとget 発想から学ぶ英語』(朝日出版社、1975年)だったような気がする。
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