油井宏子『古文書はじめの一歩』柏書房、2008年
前に読んだ時は、わからなかったが、くずし字は読めた字を字典で引くことが重要で、自分が読めた字を書いて「マイ字典」を作ることが勧められていた。偶々そのくずし字を読めたとしても、バラエティに富んでいるから、他のパターンが同じ字とは気が付かない。字典を引きながら、認識パターンを増やすことが必要だとわかればしめたものだ。江戸時代を通じて文字のくずし方はほとんど一定(はじめに)というのは覚える方からするとありがたい。
最初は字典が引けないのである。似たようなくずし字を判別できないから字母を探せない。字典が引けるようになればもはや入門段階ではない。その意味で古文書の独学は難しい。先生について習うのが本筋であろう。古文書を読む気になったのも先生の手解きを受けてからである。
本書は東京大学経済学部図書館文書室所蔵の『南組夜番帳』という浅田家文書を読む。浅田家は山城国相楽郡西法花野村の庄屋であった。表紙に正徳五年とあるので、1715年のことだ。正徳と言えば新井白石の活躍した時代である。時刻について丁寧に解説していて、24時間計の書き方が示される。こうして『南組夜番帳(みなみぐみよばんちょう)』という夜回りの手順書を解読していくのである。くずし字は写真や印影であるためいきなり本番なので難しいが、古文書を読むという世界を垣間見させてくれる。いままで、ここに載せてきた中野三敏の古文書の入門書に比して遥かに難しく実践的であった。あれは仮名の練習帳と考えればいい。漢字はそれこそパターンを覚えるしかない。
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