日本放送協会『プロフェッショナル仕事の流儀 料理人 西健一郎の仕事 人間、死ぬまで勉強』NHKエンタープライズ、2010年、本編43分+特典32分
世間では独学に関心が高まっているようだ。大学を出ると普通は独学になるとの話のようだが、三日坊主の私が続けることができるのは対面授業あってのことである。大学卒業後にぶらぶらした後、専門学校に通って仕事を始めることになった。登山スクールを除いて近江学や町家講座も教室だったし、昭和思想史研究会や論語塾も先生の講義を受けることで今日に至っている。お茶屋遊びも先達あってのことだ(笑)。対話を重ねることでしか学べないことがある。独学で習得する人はすごいと思っている。好みでなく良し悪しの判断基準をどのようにして習得するのかという点に私が興味を持っているからである。閾値を超えるとはどういうことかを知りたいのである。
西健一郎の本は何冊か持っていて、2冊あった『「京味」の十二か月』(文藝春秋、2009年)は1冊を割烹峰屋の若旦那に差し上げた。残りの本は料理屋には余計なものだと思っている。このDVDの話になったのが、料理の良し悪しをどうやって身につけたのかという話からだった。峰屋の先代が熱海の料理旅館で修行していた時代は縦社会だった。味を盗まれないために料理を作り終わると鍋はすぐに洗ってしまったという。教えるということはない。これは独学の世界だと思った。本物の料理はどうやったらできるのだろうか。何故この味で良いのか。興味は尽きないのだ。
このDVDは71歳の西健一郎がお節料理つくりに打ち込む番組だった。
西音松という京料理の巨人であった父に習ったエピソードがいい。
「奥のある味」は食べた後に忘れられない味のことだ。
「手間をかける」さらにもうひと手間をかけて奥のある味を引き出す。手間をかけることでいらないものがなくなる。蒸すことでいらない味を出して良い味を染み込ませることができる。
「本当に、これでよいのだろうか」。
「どうすれば本当の料理ができるのか」。
悩んだ西健一郎はすでに引退していた父に教えを乞うた。
父に料理を10年習った。味のレベルが違う。何も教えてくれない。ただ父の料理を作るのを見ていた。肝心なところは見せてくれなかった。
「死ぬまで勉強」と父親のボソッっと呟いたことばが西健一郎を支えていた。
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