佐藤進一『日本の中世国家』岩波文庫、2020年
五味文彦氏を解説を読むために買ったと言ってよい。
読んで2点感銘した。
第1点 佐藤進一の篤き心
「あの年の春ゆかりなく出逢い、やがてわが心への重い問いかけとなってしまったあの闘争への、ささやかな関わりがなければ、本書はこのようなものにはならなかったであろうことも、ここに書きとめておきたい。」(はしがき P11)
五味文彦氏は以下のように解説した。
「「あの闘争」とは「1968年以来の東大文学部闘争」であって、それがいかに著者に重い問いかけになっていたのかが、この一文から伝わってくる。戦争に召集されても一兵卒として過ごし、安保闘争の犠牲者の追悼と抗議のデモでは、先頭に立ってきた。過去を漫然と見るのではなく、現代との厳しい対決から歴史を見ることを著者は試み、歩んできたのである」(P372)。
私は解説を読んで、「安保闘争」で亡くなったのが、東大国史学科の学生の樺美智子であることを知った。佐藤進一は「学科の教官として慰霊と抗議の国会デモ行進の先頭に立った」(P371)。思わず子安宣邦先生とイメージが重なった。
第2点 著作の動機
佐藤進一の著作の動機は「仲間意識」を探求することに発していた。
「知識人社会にも抜きがたい日本人の仲間意識の源流を探りたいという現実的欲求が、本書の執筆意欲を支えた、と言ったら、読者は笑うだろうか?」(「佐藤進一自略歴譜」(『中央史学』10号))。
五味文彦氏は解説で述べている。
「武家政権を担った政治家・武人や、王朝国家を運営していた王朝貴族の仲間意識を追求するなかで、かの結論が導きだされたのである。そういえば著者は日記を広く蒐集していた。歴史的に著名な日記だけではなく、身近な人の日記も借覧していたという。これは日記を記していた当人の意識を探ろうとしてのものと考えられる」(P379)。
「制度を整え、制度を動かす政治家の意識を探ることがその根底にあったからこそ、著者の描く後醍醐天皇、足利直義らの人物像は、極めて精彩に溢れているのであろう」(P379)。
書誌情報
『日本の中世国家』(日本歴史叢書、岩波書店、1983年)は2007年に岩波現代文庫となり、2020年に岩波文庫となった。解説は岩波現代文庫の解説に大幅に加筆したとある。
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