『第2言語習得のメカニズム』(2003)

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ロッド・エリス、牧野髙吉訳『第2言語習得のメカニズム』ちくま学芸文庫、2003年

書誌情報

Rod Ellis, Second Language Acquisition , Oxford University Press, 1997. をちくま学芸文庫のために翻訳したものに著者の日本語版への序文が付いたもの。翻訳した牧野髙吉氏の解説によれば、一般書である。

第1部 概説(10章〜159頁)

第2部 リーディング(章毎にテクストと質問)

第3部 参考文献 (章毎に3段階のレベル付)

第4部 用語概説(あいうえお順)

日本語の索引が付いている。

本書は第2言語を習得するための秘訣(虎の巻)を教えるものではない。世の中には学習者が個人的に実践してきた方法を体験的に語ることが多いし、私はかなりその手のものを読んできた方だと思う。本書は第2言語を習得するプロセスを科学的に解明しょうとする本である。しかも概説書であることから、学際的なテーマが広範であり、対立する理論を併記することで結論が出ていないと書かれていることが多い。

私の場合、買った時と、今では問題意識が異なっている。第1言語としての日本語の処理機能の反省的観点から第2言語習得のメカニズムを考えてみたいと思った。幼児は意識的に努力しなくても第1言語を習得する。だが、第2言語を習得できるとは限らない。第2言語習得が、第1言語習得のようなわけにはいかない理由を知りたいと思った。第2言語の習得のメカニズムというものがあるとしたら、どのようなものなのか。本書のような小冊子では概説にどどまざるを得ないのは残念である。

本書は概説書であって処方箋ではない。経営学の目的が経営行動の原理の究明にあるとすれば、すぐには環境の異なる個々の経営に役立たせることはできない。だから、経営者はドラッカーに処方箋を求めたりした。イノベーションについてはクリステンセンとか、リーダシップはコトラーとかである。本書を読んでも第2言語を習得できるわけではない。ただし、第2言語習得研究の成果を採り入れることはできる。第2言語習得モデルというものを意識することで、無反省に行われている学習方法や教室の中で行われている方法に反省を促すことがあるのかもしれない。

注)買った時は処方箋かと思って読んだが、違っていたので本箱に仕舞われていた。今井むつみ氏の『学びとはなにか』(岩波新書、2016年)を読んで発達心理学や認知科学による第1言語習得のメカニズムの議論をある程度理解したので、第2言語習得のメカニズムということの意義が理解できるようになった。移民の問題を考えれば第2言語の習得のメカニズムの解明の必要性が高いことが分かる。

注)本書のような学術的な解説書を私が読むことに意味があるとすれば、第2言語修得者の経験的な処方箋を学習方略に取り入れてきたが、学問の世界ではより精緻に考えられていたことを知ることができたことであろう。効率的な第2言語習得は科学的方法に基づいて行うべきであるが、すべてが解明されたわけではない。

注)「学習方略」とはlearning strategyの訳である。学習者が、ある言語の語の意味や用法、文法規則などを一般化したり、推論するために使用する知的な手段(P243)をいう。こんな言葉は使ったことがなかったが、「学習戦略」と訳すと一般化される。学習方略は認知心理学の専門用語である。すぐに使ってみたくなるのが、ミーハーなところだ。

#語学 #学習

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