『精神と世間と虚偽』(2016)

読書時間

山本七平『精神と世間と虚偽 混迷の時代に知っておきたい本』(さくら舎、2016年)

『諸君!』に「山本七平の私の本棚から」(1982年6月〜1982年8月)として連載したものを再構成した。帯には初の単行本化!とあったので、買い求めた。山本七平の本の読み方が分かる本である。私もこれ以外は知らない。22冊の本を通して山本七平が語りたかったことが伝わってくる。

「趣味が読書だとすべてを、まことに漫然と読み始める」と山本七平は書いている。

「いつものように漫然と読み始める」。

山本七平の読書は、「漫然と読んでいると、時々ふと読書をやめて他のことを考えている自分に気づく。そしてまた我に返って読み始める。」ということらしい。しかし、山本七平の文体では、他からはそうとは受け取られないであろう。「ご冗談でしょう、ファインマンさん」という訳である。

私も仕事では、段取つけて書くのだけれど(そうしないと調書にならない。)、ブログは頭に浮かんだ由無し事を書き留めるので、グダグダである。本を漫然と読んでいるうちに、刺激されて、他のことを考えて、それをメモしているのが、このブログの正体なのだ。私の本の読み方の鑑のようなものである。

吉田満の『平和への巡礼』(新教出版社、1982年)を「精神的な自伝の極み」として「生涯の友」のような本だという。そして、延々と続く抜書はそれだけ読んで吉田満の力を感じた。自分の感情や思考が揺すぶられたのだった。

『貞観政要』は、山本七平の『帝王学 ーー「貞観政要」の読み方』(日経ビジネス人文庫、2001年)を読んだおかげで、私も原田種成『新釈漢文大系 貞観政要 上下』(明治書院、1978年)を買ってしまった。これも、何故か今は外部倉庫にあって役に立たぬ。この「真の権力者」を問うは『貞観政要』を扱った『帝王学』の作成裏話的な読みができて面白かった。

京極純一が2016年に逝去していたのは知らなかった。そもそも、京極純一の『日本の政治』(東京大学出版会、1983年)を「政治を10倍楽しく読む本」として紹介する書き出しが「読書が趣味だとすべてを、まことに漫然と読み始める。」だった。

「快刀乱麻を断つ」ではなく、「其の鋭を挫き、其の紛を解く」(『老子』4章)という言葉を山本七平が勝手に連想したと書いている。山本七平は「一刀両断、ずばりとものごとをわりきるような鋭さを挫き、もつれた糸を根気よく解くほうがよい」と解釈している。これは、『日本の政治学』ではなく『日本の政治』であり、著者の抜書をなぞると、「この書物の目的は『日本の政治』のいくつかの側面について記述し説明することであって、日本の政治の現在について評論し、日本の政治の将来について唱導することではない。」としている。「一刀両断」では日本の政治は読み解けないのであった。

それにしても、『精神と世間と虚偽』とは冴えないタイトルだ。

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