奧野健男の『坂口安吾』(文藝春秋、1972年)はこう始まる。
「坂口安吾の「堕落論」を読んだとき受けたような鮮烈な衝撃を、ぼくは生涯において二度と読書から受けることはないであろう。それは十九歳のぼくを今まで縛っていた戦争期の倫理や観念やタブーから一挙に自由にしてくれ、新しい生き方を示してくれた霹靂であった。政治的な意味で終戦宣言は八月十五日の天皇の詔勅であろうが、ぼくにとって魂の終戦宣言は坂口安吾の「堕落論」にほからなかった」。
「堕落論」によって奧野健男の主体的人生としての戦後が始まったという。
評論家としての奧野健男が昭和47年に出版した坂口安吾の評伝である。
さて、「堕落論」を読むか、『坂口安吾』を読むか。
注)
「堕落論」は『新潮』1946年4月号に掲載された。
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