井上光貞『日本国家の起源』岩波新書、1960年、2021年第44刷
日本国家の起源を扱うために、まず、国家の定義を明らかにする必要がある。「通常、国家は国民・領土・統治組織の三つの要素から成り立つ、といわれるが、国民といい、領土といい、その意識が成立してきたのは、世界史的にみて十六世紀以後のことであって、そういう三つの要素をそなえた国家とは近代国家のことである。したがって、国家の成立とは近代国家の成立のことであると理解するのが、厳密であり、かつ歴史的である」(P4-5)。
「しかし、日本の国家を考える場合、とくにはっきりしていることは、日本の中核を形成している本州・四国・九州などは、すでにきわめて古い時代に一つの統治組織のもとにまとめられたという事実である」(P5)。
「日本国家の起源という場合に、ふつうに考えられていることは、国民・領土および統治組織の三要素からなる国家、すなわち近代国家の成立ではなくて、右にのべたような意味における統治組織の出現ということである」(P5-6)。
津田左右吉が『文学に現はれたる我が国民思想の研究(1)』(岩波文庫、1977年)で国家を近代国家概念で論じながら、国家の起源も同様に論じていて違和感があったが、井上光貞は冷静である。
本書は二部に分かれている。
前篇では、「日本に単一の統治組織の成立した時期はいつごろであったのか、それはまたどのような経過を経て成立したのか」(P7)という問題を扱い、
後篇では「歴史上劃期的な出来事をうながしたものは何であったか」(P7)という問題を扱う。
その理由を井上光貞は「今日の古代史学の段階では、前者と後者とはいささか方法を異にし、前者が比較的客観的な叙述をなしうるのに対して、後者は推測の要素をあまりにも多く含み過ぎているからである」(P8)としている。現状でも変わっていないのではないか。
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