『吾妻鏡 鎌倉幕府正史の虚実』(2024)

読書時間

藪本勝治『吾妻鏡 鎌倉幕府正史の虚実』中公新書、2024年

圧倒的な筆力である。

『吾妻鏡』が後世の編纂物であり二次史料であることを改めて認識させられた。編年体で漢文で書かれたことで正史と錯覚していたのである。現代語訳で読んだ時は先祖がどのように描かれているかに注目していたので、曲筆については気に留めていなかった。宝治合戦以降は省筆もあり、どこまでが真実でどこが虚構なのか。一次史料の裏付けがない事項も多く、『吾妻鏡』は『平家物語』のように文学として味わう物なのかも知れない。

私は戦国期のものを中心に読んできたので、語られることは一次史料である手紙が中心であり、そこには勘違いや、明らかな嘘や誇張のあることは当たり前だった。鎌倉時代は『方丈記』や『平家物語』などの文学を読んできたので、御家人間の権力闘争には興味を持てないでいた。

藪本勝治氏は「『吾妻鏡』はその編年体の配列の上に、幕府史上重要ないくつかの合戦を軍記物語的手法を用いて叙述することによって、幕府統治者の正当性を保証するための歴史像を構築することに成功した稀有の歴史書である」(p.270)と評価している。同意せざるを得ない。合戦分析が面白かったので、薮本勝治『『吾妻鏡』の合戦叙述と〈歴史〉構築』(和泉書院、2022年)の続きをじっくり読もうと思う。

吾妻鏡

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