蒲生俊敬『インド洋 日本の気候を支配する謎の大海』BLUE BACKS、2021年
インド洋について何も知らないということがわかった時、インターネットで検索を始めるのか、それとも図書館へ行くのか。私は本屋へ行った。
インド洋初の熱水噴出口の発見
東京大学名誉教授の蒲生俊敬(がもう としたか)氏の専門は化学海洋学である。インド洋初の熱水噴出口の発見は、「熱水プルーム」という海底温泉の希釈された熱水塊を観測することから始まる。
学術研究船「白鳳丸(2代目)」による1993年の航海で「ロドリゲス三重点」という逆Y字形のインド洋中央海嶺が一点で交わる要所で「熱水プルーム」を観測してた。海底温泉の位置が海丘(のちに「白鳳海丘」にあることを突き止めたが、時間切れとなった。
深海潜水調査船支援母船「よこすか」で「しんかい6500」を使って1998年にロドリゲス三重点を訪れたが、あともうひと息だった。
深海調査研究船「かいれい」で無人探索機「かいこう」を使った2000年の調査で「かいれいフィールド」から熱水試料を採取した。熱水噴出口のまわりに小型のエビがびっしりと張り付いている写真は見た記憶がある。「かいこう」は2003年にケーブル断線事故で四国沖で失われてしまった。
ダイポールモード現象
インド洋の海底地形の話から始まって、「熱塩循環」という底層水の循環の話でインド洋の概要が語られた。大気の循環である貿易風や偏西風、モンスーンという季節により変わる風が海流に影響を与える話も面白い。ソマリア海賊が夏に出没しない理由も自然から説明される。
「ダイポールモード現象」は199年に山形俊男博士によって発見された。
「インド洋の熱帯海域において、正反対の気候状態が同時に、東西に横並びになることです。東側は低音で晴天続きである一方、西側では高温で豪雨に見舞われる」(3頁)。
夏のインド洋の東で高温により上昇気流が発生すれば、隣は下降気流が発生し、その隣は上昇気流が発生する。日本に高温の夏が発生したのは、気候状態が遠隔地へ伝播する「テレコネクション」のためである。インド洋のダイポールモード現象が日本の気候に影響を与えるのは、太平洋熱帯域のエルニーニョ現象やラニーニャ現象などによるテレコネクションごダイポールモードと複合的に作用することがわかってきました。
インド洋の波高
「1950年、戦後初のフランス留学生として、大型客船「ラ・マルセイエーズ」号(1万7408トン)でインド洋を横断中だった遠藤周作(1923〜1996)が、アラビア海けらアデン湾へ向かっていた際のことを日記に残しています」(106頁)。
この記述を読んで南西モンスーンで大型船が木の葉のように揺れた話を思い出した。あいにく遠藤周作の『作家の日記』は手元にないので、夏のアラビア海を吹く風の強さはわからない。
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