五味文彦『鎌倉と京 武家政権と庶民世界』講談社学術文庫、2014年
久しぶりに読んでみて、通史の難しさを感じた。
「やっと書き終えてみてあらためて思ったのは、歴史を書く、叙述するとはどういうことか、という問題である。いろいろな史料を読み、論文を探り、構想をねって、書きはじめる。そうした一連の作業をこれまでの歴史家はくりかえしやってきた。」(p.447)。
歴史家とはそういうものなのだろう。しかし、歴史の叙述は解像度を上げた途端に難しくなる。
「わたしもそのひそみにならったのだが、調べれば調べるほどにわからないことが多くなり、このような中途半端なままに書きすすめてよいのだろうかと、つねに悩んできた」(同上)。
著者は死者の声を十分きくことができたか反省している。
「悩むなかで本書を書いて、今にして思いあたるのは、じつはわたしくしは、武家政権ということから、平家政権については『平家物語』を、鎌倉政権については『吾妻鏡』を中心にすえて、その史料としての性格を探り、素材を生かそうと試みてきたということである。書きすすめるなかで自分がなにをしたいたのかを自覚していなかったとは、まったく不明を恥じねばならない」(p.450)。
著者はその課題について後に多くの本を著している。講談社学術文庫再録に寄せて(2013年11月22日)で①政治社会史②文化芸術史③人物時代史④地域文化史⑤史料学⑥中世史論へと関心が広がったとある(p.452)
わたしは②『増補「徒然草」の歴史学』(角川ソフィア文庫、2014年)④『日本の中世を歩く』(岩波新書、2009年)⑤『書物の中世史』(みすず書房、2003年)などで、著者の関心の一部を補ったに過ぎないので、あらためて五味文彦氏を読むためのリストをつくってみたいと思った。
コメント