『南北朝』(2017)

読書時間
林屋辰三郎『南北朝』朝日新書、2017年
書誌情報
著者のあとがきによると、1957年「創元歴史選書」、1967年「創元新書」、1987年「日本史論聚」第四巻(岩波書店)、1991年の朝日文庫」で刊行されてきた。新書版になったのは帯にある呉座勇一氏の『応仁の乱』(中公新書、2016年)のブームの影響があるのかも知れない。
社会変革期
はしがきに「日本の三大改革とは?」とあった。林屋辰三郎が小中学校の頃問われたというから、戦前の話であろう。大化改新、建武中興、明治維新であるという。「天皇制の国家の歴史を主軸として」(p.3)みた場合の考え方であるという。林屋辰三郎は単に政治的改革としてみるのではなく社会変革期としてみることを書いていた。
南北朝を機に封建制社会が成立したとする林屋辰三郎の見解には戦後マルクス主義歴史学のイデオロギーが見られる。封建制という概念がもはや有用とは思えないので、符牒としては使わないが、社会変革期であると考えるとはできると思う。
6名の人物(結城宗広、楠木正成、後村上天皇、足利尊氏、佐々木道誉、足利義満)から南北朝の特徴をみていく本書が魅力的でないわけではない。今まで南北朝を読んできたが、結城宗広は記憶が薄い。宗広の手紙(pp.32-33)は返点を振ってあるのでなんとか読める。史料を読む楽しみはある。
世紀の歴史
林屋辰三郎は「一つの歴史事実の意義を評価する場合、いつもその前後の半世紀、通じて一世紀を明らかにすることを主張している」(p.212)という。前後までみて判断するとはどういうことか。南北朝の場合なら、南北朝の初めの建武の新政なら1331年(元弘元年)の元弘の変から半世紀前の1281年(公安4年)の蒙古襲来の終わってから後を考え、南北朝動乱が終わった1392年(明徳3年)の半世紀後の1441年(嘉吉元年)の嘉吉の変まで見通す必要があるというわけだ。林屋辰三郎は「歴史の法則に照らして、はっきりとした見通しをもつことが必要だと考えている」(p.213)。私は歴史に法則性をみようとはしないが、あるスパンで見ることの有用性はあると思う。

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