『批評の教室』(2021)

Goinkyodo通信 読書時間

北村紗衣『批評の教室ーーチョウのように読み、ハチのように書く』ちくま新書、2021年

新聞の書評欄について、Twitterが何やら騒がしい。ジェンダー批評は炎上しやすいようである。日本には私小説という奇妙なジャンルがあり、登場人物のプライバシーが話題になる。フィクションの世界にプライバシーの配慮を求める作者の精神性もどうかしているが、そんな作品を批評対象として取り上げながら踏込み過ぎて記事の訂正を作者から求められるという不可解なケースが発生した(注)。

批評理論については廣野由美子氏の『批評理論入門』(中公新書、2005年)を読んだくらいしかない。これはオーソドックスな批評論であった。最近でた北村紗衣氏の『批評の教室』は本だけでなく映画や劇も対象にしているし(シェイクスピア劇の批評家である)、何より章立てがスッキリしているのと、ネットでもフェミニスト批評家として有名なので、手に取ってみた。

批評について3ステップで説明している。

第1章 精読する
第2章 分析する
第3章 書く
第4章 コミュニティをつくるーー実践編

第1章 精読する

読むとはどういうことかを問う本はほとんどない。

本書も読むことのメカニズムには十分に踏み込んでいないが、精読から何を引き出すかを少し明らかにしている。

対象は作品(18頁)である。要するにフィクションである。学術論文ではない。

「文芸批評において「精読」が重視されるようになったのは、1920年代頃から萌芽が見え始め、その後盛んになったニュー・クリティシズム(新批評)と呼ばれる動きと深い関係があります」(21頁)。

「精読」とは「対象をものすごくじっくり細かいところまで気を配って読むやり方」(20頁)。

精読におけるテクニック
・当たり前だが、辞書を引く(25頁)
・作品内の事実を認定する(26頁)これは意外と難しい
・作品が表現していることを読み取る(33頁)
・自分の性的な嗜好を冷静に把握しておく(45頁)

精読のためにすべきでないこと
・人を信じること(50頁)
・語り手がウソをつくことから「信頼できない語り手」(54頁)という概念は重要。
・「作者の死」という概念も重要。ただし、「「作者の意図」を気にして解釈する必要はないのですが、一方でテクストが生まれてきた歴史的背景についてはある程度理解しておかないととんでもない誤解をしてしまったり、そもそも内容がよくわからなくなったりしてしまうことがあります」(65頁)。

精読は色々と議論がありそうだが、著者が取り上げた批評が新鮮に感じられたので、続きを読むのはまた明日にする。

(注)2021年8月25日の朝日新聞朝刊の文芸時評で鴻巣友季子氏が取り上げた桜庭一樹氏の「少女を埋める」(『文學界』2021年9月号)の記事に著者からクレームがついた。

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