『増補 花押を読む』(2000)

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佐藤進一『増補 花押を読む』平凡社ライブラリー、2000年、2013年第2刷

花押の定義
「花押(かおう)は自署の代りに用いられる記号もしくは符号であって、その起源は自署の草書体にある。草書体の自署を草名(そうみよう)とよび、草名の筆順、形状がとうてい普通の文字とは見なしえない特殊性を帯びたものを花押という」(P14)。

解説から読む
笠松宏至氏の解説ーー「前代未聞」の花押研究を読んでいて自分の不明に気がついた。佐藤進一が勝海舟(勝麟太郎)の花押の「麟」をみて信長の花押を麒麟の麟と判じた話があった。NHK大河ドラマ『麒麟がくる』の時に気がつかなければいけなかった。まあ、熱心な視聴者ではなかったからやむを得ない。

VI 十六世紀の武家の花押
一 新様式の発生
A 実名文字の倒置・裏返し(P147)
信長の花押の通例を述べたところで「長」の草体を裏返した形や「信」の字を形象化したことを論じていたが、「麟」の話はない。

D 理想・願望の表現
「まず信長の花押(図15)だが、この花押は、頻々と花押を変えた信長の花押歴の上で比較的後期に属するものであって(信長の花押八種区分の中のV型)、その原拠は「麟」の字と解せられる。筆者ははじめてこれを解読できなかったが、たまたま遥か後代の人物勝海舟の花押(図31)を寓目する機会を得て、これを手がかりとして、信長の花押について右の解釈を得た」(P156)。

「麟」は「麒」と組み合わせて「麒麟」となる。

「麒麟が至治の世にしか姿を見せぬ動物であり、「聖人之隠見、王政之汚隆」みなこれにかかわる底の動物であるとすれば、この文字に何が託されるかはおのずから明らかである。云く、至治の世、和平一統の代への願望である。自らの力によってそのような世を達成しようという理想を含意するかどうかは今にわかに断定できないとしても、そのような世を望ましきものとする認識の表明であることはおそらく疑いないであろう」(P158)。

永禄八年五月十九日、松永久秀による将軍足利義輝の弑殺の事件の影響を佐藤進一は考えている(P159)。

麟の花押の初見は永禄八年九月日付の寂光院文書だという(P159)。

最近の研究では、松永久秀は関わっていないそうだが、そう伝わったので、佐藤進一ですら、そういう認識なのが歴史の怖いところだ。

「天下布武」の印は永禄十一年十一月頃からだという(奥野高広著『織田信長文書の研究』参照)(P159)。

これに関しては「隠微な形で花押にこめられた寓意の堂々たる開花と見ても、おそらく的はずれにはなるまい」(P159-160)と書いてある。

なお、花押は承平三年(933)の右大史坂上經行の花押に始まり、現代政治家は福田赳夫総理大臣の花押まで述べられる。

書誌情報
1988年に平凡社選書として刊行したものを増補して平凡社ライブラリーとした。人名索引と用字索引がある。

 

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