『ある法学者の軌跡』(1978)

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川島武宜『ある法学者の軌跡』有斐閣、1978年、1984年第10刷

川島武宜(たけよし)が有斐閣の新川正美を聞き手にして話した録音をもとに加筆したもので、平易な文章である。しかも、索引もあり、読み返しやすい。

この本は丸山有彦氏のブログ「myコンテンツ工房」の2016年1月6日の投稿に刺激されて、7日にAmazonでポチした。

私は丸山氏のように日本語の問題について考えることだけでなく、自分が法学部で過ごした時間を考えてみることもあって注文したのだった。

著者が過ごした東京帝国大学に入学した1928年から教授となった1945年、戦後の東京大学を退官する1969年に事件や戦争を重ねて行きながら読むことになった。

Brotwissenschft(パンのための学問)として一高から東大法学部に進んだことに後ろめたさを感じていたという。しかし、関東大震災の後のトタン屋根のバラック校舎へ詰め込まれた著者が経験するマスプロ教育はすさまじい。マイクがないので後ろの方は聴こえない。パンのための学問では身が入るはずがありません。この劣等感は、講義を聴いても分からない、聴こえないでは救われようがありません。

「初めて学問をする人、つまり学問上の蓄積のない人が学問をするときには、どういう方法や手続でやっていったらよいか、という研究の手順を教えることが、ほんとうは必要ではないか」(P111)という指摘をし、著者の経験を書いているところは面白く読める。どのようなテーマがどのようになっているかが分からないのがその分野に入る全ての人に当てはまる。

大学紛争の打撃は著者にとって決定的なものだった。定年間近で3ヶ月の貴重な研究時間を奪われ、大事な研究メモのカードが失われた研究室で「恩師穂積重先生と末弘厳太郎先生の肖像写真が枠とともにズタズタに破られて床に散乱しているだけでした。」(P295)というところを読んだ時、涙を禁じ得なかった。穂積重遠『新訳論語』(講談社学術文庫、1981年)を読んでいるところだったのだ。

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