原研哉『白』中央公論新社、2008年
第二章
しとしろしき触発力
「紙はメディアである。しかし、メディアの本質は実用性のみならず、むしろそれが人間の創造性やコミュニケーションへの衝動をいかに刺激し鼓舞するかという点にある」(P14)。
「紙は、混沌から立ち上がってくる「いとしろきもの」ものが物質化したものである」(P15)。
白い枚葉として
「紙は西洋紀元の前後に中国で発明された。後漢の蔡倫がその製法を体系化とされる」(P15)。
「今日、電子メディアの進展によって紙の役割が変わりつつある。「グーテンベルク銀河の終焉」などという言葉も聞こえてくる」(P16)。
「紙は書写・印刷材料である以上に、生命や情報の原像としての「白」を象徴している点で、人類の発想を触発し続けてきた知の触媒である」(P16)
創造意欲をかき立てる媒質
「紙は印刷メディアであると言われる。電子メディアの登場によって、紙はことさらこう呼ばれるようになったが、媒質を持たないことご特徴である電子メディアと違って、紙には「メディア」という概念では言及できない性質ごあり、そこに紙の本質がある」(P17)。
原研哉氏は「媒質」について、古代に想いをめぐらす。石器時代の石斧、鉄の時代の鉄器、バビロニアの時代の楔形文字を刻んだ粘土板という媒質である。
「紙もまた、その白さと張りによつて、人類の意欲をそそり続けてきたのである」(P19)。
反芻する白
原研哉氏が紙を選ぶとき、「目や指先を通してまさに感覚の産毛をさかだてながら白い紙を触っている。触るというよりも白を反芻するといった方がふさわしいかもしれない」(P19)。
「書籍のデザインは、白い紙の組み合わせから始まる」(P20)。
「デザインとは差異のコントロールだが、仕事を無数に繰り返すうちに、本当に必要な差異だけでいいと思うようになった」(P20)。
「白色度というのは物理的な指標であって感受性の指標ではない」(P23)。
言葉を畳む
「書籍は、人間の叡智として生産された言葉をちょぞうする場所として、誕生以来多くの工夫が加えられてきた。また、書物の中に文字をおさめる文字制御の作法は、書物にかくのうされるべきものとして峻別されたテキストを、書籍の中に座らせるための知恵、技術、あるいは美意識や思想として発達してきた」(P26)。
「自然の中には四角いものは案外と少ない」(P26)。
「書籍は四角い紙でてきている」(P27)。
文字というもの
「文字を書籍というオブジェクトにしつらえていく際の美意識が、合理性とは異なる動機から生まれてきている」(P29)。
「ローマ時代のアルファベットはイシに彫刻されることが多かったために、ローマン系の書体は刃物で文字のはしを整えるセリフという突起を持つ」(P29)。
活字とタイポグラフィ
活字の設計者が挙げられる。
「ローマン体」活字を設計したニコラス・ジャンセン
「イタリック」書体を設計したアルドゥス・マヌティウス
ローマン体の特徴であるセリフはそのうねりの中で削り取られていく。いわゆるサンセリフ(セリフのない)書体
サンセリフの傑作「ヘルベティカ」を設計したマックス・ミーディンガー
活字のウエイトや縦横比の変化を総合的な書体ファミリーとして集約した「ユニバース」のアドリアン・フルティガー
中国の「楷書」は「宋朝体」を生み出し、「明朝体」へ推移する。
『白』(2008)その3へ続く
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