『仏教の思想2 存在の分析<アビダルマ>』(1969)その3

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桜部建・上山春平『仏教の思想2 存在の分析<アビダルマ>』角川書店、1969年、1978年第10版

定方晟『須弥山と極楽 仏教の宇宙観』(講談社現代新書、1973年)は『倶舎論』の世界、三千大千世界の話でした。これがアビダルマの話と思わずに読んでいたのでした。

第一章 宇宙

桜部建がアビダルマを三千大千世界の話から始めていましたが、読んだばかりですから、違和感なく読めてしまいました。本当は可笑しいのです。古代インド人の想像力は理解不能にしておかないといけません。

「一世界が千箇集まったものが、小千世界である。小千とは一千のことである。現代風にいえば、小千世界は銀河系のごときものか。次に、この小千世界が千箇集まると中千世界なるものができあがる。(省略)次に、この中千世界が千箇集まると大千世界なるものができあがる。(省略)結局、十億箇の世界である」(P84-85、『須弥山と極楽』)。三千大千世界とは1,000の3乗でした。現代の宇宙論では1,000万から100兆箇の星々を集めた銀河が観測可能な範囲で2,000億箇といいますからから、インド人もびっくりというわけです。

古代インド人がこの世界が生成、消滅を繰り広げる過程を考えていたことが驚きです。

「広く虚しい空間にサットヴァ・カルマンの力が働いて、"微風"が吹きそめてから、自然界が完成されるに至るまでに、一アンタラ・カルパの時間を要し、自然界ができあがってから、天上・地表・地下のどこにも生物(サットヴァ)が発生して生物界の形成が完了するまでには、一九アンタラ・カルパを要するという。世界形成の全過程は二〇アンタラ・カルパの長年月にわたるわけである」(P22)。

仏教は造物主によらずに自然界が形成されたと考えます。『具舎論』によれば、「サットヴァ・カルマン」によって生まれるだといいます。「サットヴァ」とは「有情(うじよう)」とか「衆生(しゆじよう)とかいう「この世に生命をもって存在するもの、あらゆる生ものを意味」(P18)します。「カルマン」は「業(ごう)」で「行為・動作」(P18)です。

この論理は「自然界の成立に先立って生命あるものが存在していると考えなければならない」(P18)となってしまいます。しかし、桜部建氏は「一個でなく多数の自然界を考えることによって説明される」(P19)といいます。既に存在している自然界の影響で自然界が生じるという説明は可能と思いますが、究極のところで最初の自然界の形成の説明ができないと思います。

世界形成の周期は世界形成、持続、世界破壊、そして虚しい空間がそれぞれ二〇アンタラ・カルパ続くといいます。そしてまたサットヴァ・カルマンの"微風"が吹き起こして、次の世界形成の過程が始まります。アンタラ・カルパはどのくらいの長さの期間なのかはっきりしないといいます。ある算定法によると、一五九九万八千年となるので、世界形成の周期は4×20アンタラ・カルパですから、約一二億八千万年となって、少し短い気がしますが、その想像力には恐れ入ります。

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