渡部昇一『英語の語源』講談社現代新書、1977年
再読としたのは、前に書いたのと被るのと少し時間も経っているのでその2としなかった。
新語源学に基づいている
「百万人の英語」というラジオ講座で渡部昇一がWord Power Hourを毎週金曜日に担当したのを聴いて語源に興味を持ったことは以前に書いた記憶がある。年末に朗読するTennysonの詩を知ったのもこの講座であった。
『英語の語源』で大事なことは、ドイツの新語源学を渡部昇一がシュナイダーに師事して知ったことである。「イメージの考古学」という。音韻変化の系譜を追う語源学とは異なる古代人のイメージを単語の中に探る語源学である。
私が白川静に興味を持ったのも漢字を通して古代人を語る点であった。少し宗教性に傾いているとの批判もあるが、精神的なものを抜きにしては古代人の遺物を語ることはできないと思う。
「小学」という方法論
渡部昇一は『荘子』の鯤と鵬を巨大なものとしたのは荘子のシャレであるという。本来、鯤は魚の卵、鵬は小鳥の群たものをいう。幸田露伴を読んで知ったという。幸田露伴が何故普通の漢学者が気がつかない奇妙なことに気がついたのか調べた。それが「小学」という「文字の形象から語源・語根に及び、訓詁や音韻を研究する学問である」(P15)という。
「「小」という字は「I」(左ハネ)と「ハ」からなる会意文字である。「I」(左ハネ)は微細の物を示し、「ハ」はそれを分離することを示す。微細なものをさらに分離分析すれば、ますます微細なことになる。したがって「小学」とは、文字や字義を細かく分析して考究する学問のことである」(P15)。
幸田露伴の「一貫章義」を例にあげて、『論語』里人第四第十五章の三五文字からなる文章(渡部は節としているが、子安先生より章で習っているので章とした)を解釈するため七〇ページを費やしてることに感激している。「本を読むことはこういうことなのか、と知らされた」(P16)。
小学的研究により、「ヨーロッパ人の根源的な世界観や人間観を「イメージの考古学」によって発掘された成果を通じて」(P18)語っていく。
目次に見る世界観
以下、6章は語源のイメージは読み物として読んで渡部昇一の博学を味うことになる。怪しいところもあるので、話半分にしておかないとスキーマを乱される。
1「人間」のイメージ
2 思考・音楽・記憶
3 女性・生まれ・血統
4 自然ーー生みだす力
5 家・パン・領地ーー家父長のイメージ
6 母性と父性ーー保護者のイメージ
人間は土から生まれて土に還るもののイメージがある。
「英語で「人間の」という意味のhumanは、元来はラテン語の「人間」(homo)から出たものであるが、それは「大地」を意味するhumusという単語と同根である」(P21)。旧約聖書で土から人が造られた話と符合するのも面白い。
注)「小」について会意文字としたのは「説文解字」によると考えられる。白川静は『字通』では象形文字とした。「微小なるものに象る。金文の字形は、貝または玉を示すものであろう」。
2019-04-25『英語の語源』(1977)
https://handbook-of-four-cities.com/entry/2019/04/25/060000-1696
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