五味文彦『書物の中世史』みすず書房、2003年
呉座勇一氏の『日本中世への招待』(朝日新書、2020年)の付録に「さらに中世を知りたい人のためのブックガイド」で五味文彦氏の『平家物語、史と説話』(平凡社ライブラリー、1987年)が取り上げられていた。歴史学の方法論で作家論にアプローチした画期的な研究だという。そのなかで、呉座勇一氏が『書物の中世史』にも言及していた。そういえば、五味文彦氏の本は『書物の中世史』が研究所の本棚にあったと思ったので、早速探してみた。やはりブックガイドは必要である。本はネットワークで読むのが私のやり方なので、知が繋がれば読み易いが、離れた知は理解に時間がかかる。今、日本中世史の本を読むのは本のネットワーク化が出来つつあるのだろう。
『書物の中世史』は515頁の大著であり、当時の私はどう扱ってよいか分からなかった。日本中世の知のネットワークを書物から提示すると言われても、私が触れたことのある書物は僅かでしかない。本箱に仕舞われていたのを、いつだったか、若者が取り出して本棚の奥に挿していた。
「むすびにかえて」で五味文彦氏は本書の目的を要約している。
「本書では中世の書物の編著者と成立時期を探るという一種の謎解きを推進力として、さまざまな角度から書物を探索し、書物の真偽の弁別や、その特質・歴史的位置を考え、中世の知の体系・ネットワークを明らかにしようとつとめた」(P505)。
兼好の『徒然草』第226段では『平家物語』の作者を信濃前司行長とされたが、そのことを研究した『平家物語、史と説話』を読んでみてからにしよう。小川剛生氏の『新版徒然草』(角川ソフィア文庫、2015年)の補注91をみると、五味文彦氏の著者に触れているが、「尊卑分脈には「蔵人 従五下 下野守」とあり、任国が齟齬するので、同人と見るか慎重な意見もある」としている。
著者の方法論は「序 書物史の方法 『本朝書籍目録』を素材に」にあるので、メモしておく。
このような方法論が出来上がった背景を知りたいと思う。
「まず、重視するのは、書物を著した著者の意図を探ることである。何らかの目的なしに書物が著されることはない。その意図を探るためにはどなような構成をとっているのかを把握する必要がある」(P9)。
「次に探るのは成立年代と著者である」(P10)。
書籍考察の具体的手順
1 概略を知り、構成を探ること。
2 特別な記事に注目して掘り下げること。
3 関連する書籍を考察すること。
4 成立時期を探ること。
5 記事の多寡から編著者を推定する。
6 推定した編著者の経歴を探り、本との関連を考えること。
7 改めて他の書物との関連から編著者を探る。
8 著作の性格を捉える。
9 成立時期を考える。
10 書籍の展開を読む。
『本朝書籍目録』を例に具体的に考察されたものを読むと、講義を聴くような感じがする。
コメント