『「わかる」とはどういうことか』(2002)

読書時間

山鳥重『「わかる」とはどういうことか』ちくま新書、2002年

山鳥重(あつし)氏がエントロピーを使って説明するところから話は面白くなりました。山鳥重氏は脳の高次機能障害の臨床医なので熱力学の専門家ではありませんが、説明は腑に落ちました。人間が「わかりたい」と思うのは心の根本的な傾向だといいます。

第6章 「わかる」ためには何が必要か

物理世界ではエネルギーが均等になろうとする傾向があり、エントロピーが増大するといいます。つまり無秩序へ向かう傾向にあります。それに対して生命体は秩序を持っています。秩序を維持するために絶えずエネルギーを蓄えエントロピーを減少させます。生命体はいずれエネルギーを放散して死ぬことでわかるように、秩序を失うことで死へ傾いていきます。

生きるために必要なことは食事の摂取です。身体が必要とするものを取ることで生命体を維持しなければなりません。そのために身体レベルで情報識別を行い、知覚心象に基づき行動することで生存を果たし、細胞レベルでは細胞膜によって生命体構成物質を取込みます。

「情報識別という根本的仕組みによって生命体というひとつの秩序が誕生したのと同じように、その生命体が人間に至って心という新しい秩序を生み出したのです。この秩序は身体性を持つ身体ように手に取ることも、見ることも出来ませんが、行動という形式で外形化させることが出来、心という形式で経験することが出来ます」(P181)。

「わかる、というのは秩序を生む心の働きです。秩序が生まれると、心はわかった、という信号を出してくれます。つまり、わかったという感情です。その信号が出ると、心に快感、落ち着きが生まれます」(P181)。

「わかる」という当たり前のようで、「わからない」ことをとことん考えた本です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました