斎藤美奈子『文庫解説ワンダーランド』岩波新書、2017年
文庫版の解説を解説する岩波新書が出た。斎藤美奈子氏が岩波の『図書』の連載(2014年9月〜2016年8月)したものに大幅な加筆ほどこし、編集しなおしたものである。
古典的書物の解説に求められる要素を3つあげている。
①テキストの書誌、著者の経歴、本が書かれた時代背景などの「基礎情報」
②本の特徴、要点、魅力などを述べた読書の指針となる「アシスト情報」
③以上を踏まえたうえで、その本のいま読む意義を述べた「効能情報」
斎藤美奈子氏は、さらに「攻めの解説」を付け加えた。
④その本の新たな読み方を提案する「リサイクル情報」
そうやって、実際の文庫の解説を読むと、左にあらず。
『坊ちゃん』、『伊豆の踊子』、『雪国』、『走れメロス』の解説を読み比べ、唖然とする斎藤美奈子氏である。『坊ちゃん』は悲劇?喜劇?と思わず絶句する解説振りである。『走れメロス』などは交遊を先輩の井伏鱒二が書いているだけで、『走れメロス』がどういう短編なのかを書こうともしていない。
という訳で、解説もけっこう凄い事になっているようだ。もっとも、ここで取り上げたのは賞味期限切れの解説のようだ。作品と対峙する解説などは滅多にない。
私も単行本を持っているにもかかわらず解説を読むために文庫本を買うこともある。他者はどういう視点で読んでいるか、ファンとしては知りたくなったりする。私の読み取れていないところを知ることができると嬉しくなる。
しかし、斎藤美奈子氏が斬りまくる「解説」はホンマにひどいのだろうか。手元にある本が取り上げられていないのが残念である。
斎藤美奈子氏は書いていないけれども、日本の文庫本の解説にあたるものは、英米のペーパーバックにはない。あるのは新聞・雑誌の書評の抜書だ。推薦文が付いているものもあるけど、ハードカバーのときから推薦文が入っているだけで、ペーパーバッグに特別に付けるといるわけではない。やはり、日本ならではの文化であった。
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