トニー・ジャット、森本醇訳『ヨーロッパ戦後史 上』みすず書房、2008年
Brexitを考えるに当たり、ヨーロッパと何かという問いに戻らざるをえない。あの戦争による荒廃から復興したヨーロッパの「戦後」はどうだったのか。
日本では、「もはや戦後ではない」という1956年の経済白書の言葉が戦後復興経済の終わりを告げた。一般には、戦前の経済水準に戻ったことだと受け止められている。しかし、経済企画庁の経済白書の結論を読むと確かに復興による成長の終わりを言っている。
「もはや「戦後」ではない。我々はいまや異なった事態に当面しようとしている。回復を通じての成長は終わった。今後の成長は近代化によって支えられる。そして近代化の進歩も速やかにしてかつ安定的な経済の成長によって初めて可能となるのである」。
トニー・ジャット教授のテーゼが全て当たっているとは思わないが、テーゼがあることで我々は手掛かりを得ることができる。
上巻は2段組578頁
第1部戦後・1945-1953年
第2部繁栄と不満と・1953-1971年
長部重泰氏「『ヨーロッパ戦後史』を読むために」を巻頭に書いている。
上巻の翻訳は森本醇氏
下巻も2段組490頁+42頁の索引
第3部景気後退期・1971-1989年
第4部崩壊の後で・1989-2005年
エピローグ
下巻の翻訳は浅沼澄氏
下巻のエピローグをここに書くのは順序が違うと言われるかもしれない。しかし、読書とは最初から読むものとは限らない。この本の場合は、上巻の長部重泰氏の解題と下巻の著者によるホロコースト論から読むことになったと書いておく。
トニー・ジャット教授は扉にトーマス・マンの『魔の山』から「現在の直前に起こったことほど、その過去性は深みを増し、伝説となっているのではないか?」を引用した。
エピローグの「死者の家からーー近代ヨーロッパの記憶についての小論」では、以下のようにユダヤ人のハイネを語る。
「ハインリヒ・ハイネが到達した結論によると、ユダヤ人にとっての「ヨーロッパへの入場券」はキリスト教受洗である」(下巻451頁)。
そして、「「ホロコーストを認めることが、われわれの現代ヨーロッパへの入場券」(同上)だとトニー・ジャット教授はエピローグを展開する。
ハイネとマンの読み直しと思った時、辻邦生の『パリの手記』を読んだ45年前をふと思い出した。
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