上山春平『城と国家 戦国時代の探索』小学館、1981年
上山春平の国家論研究の第1のテーマは明治維新、第2のテーマは律令国家の形成であり、第3のテーマは幕藩体制の形成であるとあとがきに書いてある。
本書は第3のテーマに関して「私の関心は戦国期に集中しており、とくに戦国期探索の手ががりを、当時の城砦遺跡を踏査することに求める形をとっている」としている。
本書は3つに分かれている。
Ⅰ 山城と国家論
Ⅱ 京都の山城を探索する
Ⅲ 城と合戦
この本の面白いところは、Ⅲ 城と合戦に藤井尚夫氏及び藤本正行氏との長篠の合戦に関する対談がある点である。上山春平も山城マニアとして登場する。藤本正行氏は「長篠鉄砲戦術は虚構だ」『歴史と旅』(1980年5月号、秋田書店)をすでに書いていて、三千丁の鉄砲を否定していた。まだ、『信長の戦国軍事学』(JICC出版局、1993年)を出していない。この遥か後、長篠の合戦について藤本正行氏と平山優氏との論争が起こることなど想像もつかない。
京都の山城を歩く章もある。上山春平が自ら縄張り図を書くほど熱中したのだった。第3のテーマがどうなったのか私は知らない。この本は書泉グランデのブックカバーが付いていて懐かしい。この頃の記憶はもう確かでない。この哲学書はそのまま本棚に刺さったままだったし、本屋の紙袋に岩波書店の『文学』が3冊入ったまま今日を迎えた。
思い出したのは、上山春平が太平洋戦争で潜水艦に乗っていた話だ。「その潜水艦は伊号三六三。甲板上に五基の回天(人間魚雷)を積んでおり、私は回天の搭乗員として乗り組んでいたので、当直はもちろん、あらゆる職務分掌からはずされていた」(P15)。
これは重い話だ。30年も遠ざかっていたので、上山春平の立ち位置を忘れていた。「大学を出て、海軍に入隊し、敗戦までの二年間、修羅のちまたをさまようことにな」(P15)ったのだった。上山春平がここまで国家論に取り組むのには訳があった。
『城と国家』(1981)(その2)
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