大木毅『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』岩波新書、2019年
ドイツ30年戦争で宗教を理由とした戦争の不毛さを経験したヨーロッパ人が、近代国家として国民を巻き込んだ戦争を行い、帝国主義的収奪戦争を戦っていた。ところが、ヒトラーによるイデオロギーによる終わりなき戦争である「世界観戦争」を招いてしまった。戦争が外交の延長である通常戦争であれば政治的な解決が期待されるが、世界観戦争は独ソ戦に政治的な解決を排除してしまった。
大木毅氏は「最初、対ソ戦は、通常戦争、収奪戦争、世界観戦争(絶滅戦争)の三つが並行するかたちで進められた」(P220)複合戦争であるという。
「ドイツが遂行しようとした対ソ戦争は、戦争目的を達成したのちに講和で終結するような一九世紀的戦争ではなく、人種主義にもとづく社会秩序の改変と収奪による植民地帝国の建設をめざす世界観戦争であり、かつ「敵」と定められた者の生命を組織的に奪っていく絶滅戦争でもあるという、複合的な戦争だった」(P220)。
「しかし、この三種類の戦争が重なるところでは、国防軍による出動部隊の支援やレニングラードへの飢餓作戦などの事象がすでに現れていた。続いて、通常戦争での優勢が危うくなると、収奪戦争と絶滅戦争の比重が大きくなる。さらに敗勢が決定的になり、通常戦争が「絶対戦争」に変質した。しかも、それは、絶滅戦争と収奪戦争に包含され、史上空前の殺戮と惨禍をもたらしたのである」(P220)。
空前のスケールを描いた本書は戦争に関する私の見方を変えた。独ソ戦は理解を超えていた。日中戦争の本質も通常戦争と収奪戦争から理解できないか、調べてみようと思う。
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