文人気質(その4)

断片記憶

磯田道史『無私の日本人』文藝春秋、2012年

ジョン・ウオーカー&大山和哉『大田垣蓮月:幽居の和歌と作品』蓮月財団プロジェクト、2014年

林浩平氏が大田垣蓮月を取り上げた時に、杉本秀太郎の『大田垣蓮月』(1982年)を読みたいと思ったが、中公文庫版(1988年)も絶版のようなので諦めた。外部倉庫から引き取った箱のなかから武士の家計簿の人の『無私の日本人』が出てきて、なぜか大田垣蓮月が取り上げられていた。私は野村美術館で見た大田垣蓮月尼展のときのジョン・ウオーカー&大山和哉『大田垣蓮月:幽居の和歌と作品』(蓮月財団プロジェクト、2014年)を図録の代わりに買って持ち歩いた記憶が残っていた。それが研究所の本棚に刺さっていたのは幸運だった。若者たちもただの図録とは考えなかったようだ。何しろ重い。

磯野道史氏の書いた評伝を読んで大田垣蓮月の生涯を概観できた。大田垣とは不思議な苗字と思っていてが、磯野氏は太田垣氏という山名氏に関係する武士の名前を大田垣と誤って名乗ったのが養父の常右衛門であるとしている。常右衛門は丹波の百姓であったが、自身の先祖の系図を信じ京に出て知恩院の寺侍になっていた。

少し知識を修正できたが、やはり歌を味わったり書や焼き物を見た方が楽しいに決まっている。『大田垣蓮月:幽居の和歌と作品』を眺めてこその味わいはある。多芸だけで文人とするには何か違う生涯のような気がする。

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