『維新の思想史』(2013)

読書時間

津田左右吉『維新の思想史』書肆心水、2013年

本書は岩波書店版津田左右吉全集から幕末維新の思想状況を扱った論文を集めたものである。津田左右吉全集を図書館で借りて読めば足りるが、明治維新をテーマにした編集を評価する。何故なら、津田左右吉の問題意識は近代日本にあるからである。

「幕末における政府とそれに対する反動勢力」

津田左右吉の舌鋒はカツ・アワ(勝海舟)に向けられて容赦ない。「幕末における政府とそれに対する反動勢力」の半分を費やして志士輩浪人輩の反動勢力が述べられ、反動勢力のなかからでた薩長政府が幕府の開国の方針を継承せざるを得なかったことを述べていた。勝海舟の日記より勝海舟の言動が志士輩浪人輩に類似していることを指摘している。勝海舟が口を極めて罵った人物が評価に耐える人物であり、勝海舟の業績に見るべきものが無いことを明らかにしている。

津田左右吉の勝海舟を見る目がクールな点は以下の記述を読めば自ずと分かる。長いが引用する。津田左右吉の文章は切れ目がなく長いのである。

“しかし、カツの関与した事件で彼の意図の成功したことは殆ど無かったのではあるまいか。そうしてそれは必ずしも彼が誠心誠意ではなかったからではなくして、他に種々の理由があり、そのうちでも、個人間の紛争を解くようなばあいには赤心を人の腹中に置くという如き態度に出ることに効果があるにしても、或はまたそういう争いには彼のいった如く柔よく剛を制すという如きことが勝敗を決する一つの方法であるにしても、事情が複雑でまた変動し易い、そうして関与するものの多い、大きな政治的勢力の争いなどにおいては、かかる心情だけでそれを動かすことができないところに、重要な理由があったのではなかろうか。カツとサイゴウとの交渉を想見すると、博徒の親分の間にでも行われたもののような観がある。”

勝海舟の人物像を洞察する重要な視角が与えられたように思う。一筋縄でいかない津田左右吉の維新に関する論文を暫く読むことにした。

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