PODが欲しくなった夜

断片記憶
E.H.カー、近藤和彦訳『歴史とは何か』岩波書店、2022年
第1講のhistoryについて、補註 a 歴史 historyの項を見るとオクスフォード英語辞典(OED)が引いてあって、急に高校時代の記憶が蘇ってきた。英語の教師が何かあるたびにオックスフォード・ポケット英語辞典(POD)を引いて語義を確かめるのであった。Oxford English Dictionary の印刷版は揃えても引くのが大変であるが、Pocket Oxford English Dictionaryを教師が片手で扱ってみせた。これが引けるようになったらいいなと思った。当時は英英に日本語訳がついた学習辞典を使っていたので、語義の説明がPODと違ったが、自分の語学力に見合った語義の説明でないと辞典は使えないとわかった。
翻訳者の近藤和彦氏はオンライン版のOEDでhistory の語義の使い分けを説明していたし、諸橋轍次『大漢和辞典』や『日本国語大辞典』(小学館)で補足していた。今はオンライン版が使えて便利である。紙の現物を見たことがない人がほとんどかもしれないが、図書館で現物を見れば感動するくらいの冊数に呆れるに違いない(注1)。要は辞書が引けることである。それぞれの編集方針を理解して、辞書に習熟するには相当な時間をかける必要がある。大槻文彦の『言海』を引いたときの話を前に書いたのを思い出した(注2)。辞書は引いて慣れるしかない。図鑑も何度も見ることで体系が頭に入ってから使えるようになる。電子事典でいきなり検索画面が出てきて使えるのはその分野の体系がわかっている人だけである。
本書では、歴史家のコリンウッドの見解に関して、「歴史」の二つの意味を説明していた。
「この言説は「歴史」(history)という語の現在の二つの意味ーーすなわち歴史家がたずさわる調査探求[歴史学]と、その調査探求の対象となる一連の過去の事象という二つ」(p.29)。
補註ではギリシャ語源historiaが「調査探求、それによってえられた知識、その説明、語り」(p.337)とあり、辞書を買いに行くときはギリシャ語のコーナーに近づかないようにしよう。オンライン辞書で今のところは十分である。活用が頭に入ってないので紙の辞書は引きようがない。
注1
Oxford English Dictionary Second Edition 20 Volume Set
諸橋轍次著 大漢和辞典 全15巻
日本国語大辞典 第二版 全13冊+別巻
注2
『〈新装版〉英文読解のナビゲーター』(2021) https://handbook-of-four-cities.com/entry/2021/06/09/060000-1214

コメント

タイトルとURLをコピーしました