『城郭考古学の冒険』(2021)

読書時間

千田嘉博『城郭考古学の冒険』幻冬舎新書、2021年

通勤電車の中で読む本として購入した。新書とはすべからくそういうものだと思っている。

城郭考古学の本を読むなら、著者の『信長の城』(岩波新書、2013年)がよいと思う。主張がコンパクトにまとまっており、一般読者には十分だと思う。本書は著者が書いてきたものをまとめたため、重複があり、統一感に欠ける。その分京都新城など最近の話題までカバーしているのはメリットがある。千田嘉博氏を今後読むとしても一般書はもうよいだろうと思う。専門書を読んでみたい。

以下の記述を読んで吉野ヶ里遺跡を見に行きたくなった。

「吉野ヶ里遺跡は復元的に整備されているが、内側から弓矢を射られない、隙間のない板塀など、防御ができない構造になっており、復元の妥当性を改めて検討する必要がある」(P31)。

「吉野ヶ里遺跡北内郭の囲郭は、内側に壕、外側に土塁を備えた。内側土塁の上には間隔が狭いスリット状の柵、外壕土塁の上にはすき間のない板塀を復元した。吉野ヶ里の人びとが壕によって敵との距離を保ちつつ効果的に防御したなら、弓矢や「つぶて」による戦いが最適であった。しかし現在復元している意匠では、そうした投射武器は柵や塀にさえぎられて敵に届かない。吉野ヶ里の人びとは、あれほどの施設を構築した上で、投射武器の有効性を放棄したことになる。戦いの視点から考えれば、木柱の間隔をあけた柵でなければ、つじつまが合わない」(P48)。

「より合理的で蓋然性が高いのは、考古学者による柵と塀の復元が完全に間違っている可能性である」(P49)とまで書いている。

自治体への注文をメモしておく。

「山中城の整備はすばらしいのだが、ひとつだけ修正してほしいところがある。城の先端の「西櫓」と「西の丸」との間をつないだ木橋を、正しく復元してほしいのである。西櫓は、本当は櫓ではなく「馬出し」と呼ぶ城の出入口で、西の丸と木橋でつながっていたことを疑う余地はない。現在の整備では、西櫓から後方の西の丸に連絡した橋を欠くので、敵に攻められれば西櫓は必然的に敵中に孤立し、助けられない。

これでは最前線で戦った城兵を北条氏は見殺しにしてよいと考えたことになってしまう。誤った解釈の整備をして、長年そのままにするのは、あまりに北条氏に対して非礼ではないか。山中城が正しく整備され、最前線の城兵を見殺しにした北条氏という濡れ衣が、一日も早く解けるのを願っている」(P61-62)。

「残念ながら名古屋城の本丸南馬出しは、明治時代に宮内省の離宮として用いていたときに、天皇ならびに皇族方の馬車通行に不便であるとして西側の堀と石垣を破壊し、馬出しとしての形態を失ったまま今日に至る。馬出しは名古屋城の防御と反撃の要の役割を果たしたから、本丸南馬出しが壊れたままなのは惜しまれる。天守を木造で再建するだけが城の整備ではなく、城を城として構成した本質的価値をいかに保護し、再現するかが大切だと思う。城=天守という考えがいくつもの城を破壊してきた。名古屋城の史跡としての本質的価値が正しく認識されるのを期待したい」(P199)。

「地形を活かしつつ、馬出しを連続させて組み立てた技巧的な岡崎城の中心部を、実際に現地で体感できるのはうれしい。しかし、現在の岡崎城にはそうした城のかたちから読みとれる意味を説明する解説版は皆無で、中心部の遺構の歴史的魅力を活かしているとはいえない。岡崎城に残る遺構の本質的価値をどう活かすのか、岡崎市はしっかり考える必要があると思う」(P202-203)。

テレビで見る千田嘉博氏は面白いが、文章は厳しい人であるようだ。

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