石川順一『LE PETIT PARISIEN』LE PETIT PARISIEN、2022年
LE PETIT PARISIENの上装本の豚革に押した刻印の中で印象的なのはパリ市の紋章である。王冠とガレー船である。2匹のドラゴンに支えられているように見える。だいぶ擦り減っていてはっきりしない。普通は銘文が刻まれているが、この紋章にはなかった。ちなみに、
FLUCTUAT NEC MERGITURというラテン語のは「たゆたえども沈まず」と訳されている。
書斎編
LE PETIT PARISIENのことを「書斎」といっている。書斎であるならば人を入れないものである。梅棹忠夫が『京都の精神』(角川ソフィア文庫、2005年)に私家版京都小事典を載せていた。『京都大事典』をもじったわけだが、「ブブヅケ」の項では「だいたい正式の招待は別として、中戸のなかまではいりこんで、食事にあずかるというのは、京都ではありえない。他人の家の玄関先より奥には一歩もはいらないのが礼儀である。それをやぶってあがりこめば、これはもう無作法きわまりない行為ということになる」(p.235)と書いていた。
書斎は個人的な趣味である。だから見せるための書斎は自惚れているか、特別な訳があるということになる。
書物・装幀編
装幀という字は難しい。字も幾つもあるが、表す内容も多岐に亘るので共通認識が得にくい言葉の一つであることは間違いない。だから、こんなものを説明するには典型を見せるに限る。書斎は説明する必要のないことを説明するところである。私など物に執着する力が抜けてきた者にとっては、逆さにして振ってバラけなければ十分によい装幀である。読書家であっても愛書家ではないのでkindle版で読むことが多い。
Joseph Brodsky “Watermark An Essay on Venice” Penguin Modern Classics, 2013, kindleを眠れぬ夜に読み始めたばかりである。手に入るにしてもペーパーバックである。劣悪な紙でしかない。本のために書庫を探し回ることもないし、何よりON DEMANDで読める。
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