『老いて賢くなる脳』(2006)

Goinkyodo通信 断片記憶
エルコノン・ゴールドバーグ、藤井瑠美訳『老いて賢くなる脳』日本放送出版協会、2006年
怪しいタイトルである。原題はThe Wisdom Paradoxである。認知神経科学者の一般向けの本であり、Wisdomがテーマである。知恵と訳しているので、それに従うことにする。
入院していた時に、症例に関する論文まで読んでいたのに、退院した後は見向きもしない。この気まぐれ脳はこれだから仕方がない。それでいて本が片付けられないのだから始末に負えない。
そんな脳も高齢者運転免許の書き換えのための認知機能検査に対応できるだけの記憶力がなくなっているようだ。タブレットで単語を検索しようとした時に、kindle版はタダの辞書があるので指で選択するだけでいい。pdfだと選択して共有から辞書に連携できる。紙の本はタブレットに入力しなければならない。しかし綴りが覚えられなくなってきた。短期記憶が低下している。何度も本を見てしまう。そうして引いた辞書を数冊開いたまま、単語の訳語を文脈の中で決めていく作業をするのである。協会の専門委員の任期が来年で切れるので、この翻訳作業も最後のご奉公になる。
年齢を重ねると神経機能が低下するのは自然である。その分辞書を引くのに時間がかかるかといえば、そうでもない。ピンポイントで引いて見切りをつけるのも早くなった。辞書を引く力がついたということだろう。言葉が一対一対応するものでないので、翻訳はいつまで経っても難しい作業であることに変わりはない。数年前なら漢字にした語も、今回はカタカナで訳している。カタカナ語が一般化してきたためである。これなどはある水準のドキュメントを読んでなければ判断できないことだ。共同作業する人々の共通認識が元になっている。
「脳のなかで、言葉を扱う領域はあちこちに分散している。たとえばものの名前(名詞)の語彙が記憶されるのは左側頭葉の視覚野に近いところである。ものは映像で思いうかべることが多いから、この位置は合理的である。いっぽう動きを表す言葉(動詞)は、左前頭葉でも運動野に近い場所に保存される。意味とまとまりのある動きをするときは、運動野が活発になるから、この位置関係も納得できる。ものごとを関係づける複雑な話は、側頭葉と前頭葉が出合う左角回というところで処理されている」(38ページ)。
すると、単語は名詞と動詞を別々に覚えた方がよいのか、バラバラな方がよいのか。それは何故か。記憶術の本ではないので、答えは書いていない。

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