加島祥造『伊那谷の老子』朝日文庫、2004年
加島祥造は伊那谷の駒ヶ根を流れる天竜川の西の段丘の大徳原に建てた小屋から、東の段丘の中沢の小屋に3年前に移ったと書いている。
Arthur WaleyのThe Way and Its Powerと林語堂の英訳本 Lin Yutang The Wisdom of Lao-tseが書棚にあって、教職から退いた加島祥造が伊那谷の小屋で読もうという話を次男にしたら、若い女性編集者が訪ねてきて、『老子』の英訳から日本語に訳してみないかと言われて、『タオ―ヒア・ナウ』(PARCO出版、1992年)を書くことになった経緯が書かれている。
京都の河原町の丸善で偶然手にしたArthur Waleyの“Chinese Poems”(Unwin Books)を読んだ時に、漢詩の面白さを知ったという。英訳なので誰の作か分からなかったというのがよかったのではないか。我々は漢詩を読む時、これは陶淵明だ。李白だと構えてしまう。
白居易の五言絶句「夜泊旅望」のArthur Waleyによる英訳から加島祥造が日本語の現代詩訳したものがいい(P88-89)。私は漢詩について漢字の配列を眺めたり、読み下しを読んで味わったつもりだったが、文語訳ではなく現代詩訳であることがいいことに改めて気がついた。加島祥造も「ただ訓読しただけでは、そこに詩人の心を感じとれなかっただろう」(P89)と書いている。
加島祥造が「荒地」に参加した詩人であり、「初期のT・S・エリオットの詩を読んだときと同じスリルだった」(P85)と書いているのを読んで、中国の遠い過去の詩人がモダンな詩人として蘇るのだった。
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