『陰謀の日本中世史』(2018)

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呉座勇一『陰謀の日本中世史』角川新書、2018年

本書を平積から取り上げたとき、意外に厚い新書だという感じがした。343ページある。気鋭の日本中世史研究者が、いわゆる「陰謀」を史学的手続を使って分析する。ちょっと刺激的な切り込みの一般書である。

本書は保元・平治の乱から始まり、そして、関ヶ原で終わる。日本中世史の守備範囲は結構長い。参考文献に出ている本の中からこれから読む本を選ぶことになるだろうと思っている。『理科系の読書術』でいうところのレファレンス本として本書は書籍案内の役割もある。

通史を読もうと思っていても、過去に読んだ通俗的な小説の記憶が、その時代は面白くないと告げたこともあり、一般書・専門書は古代と戦国期のものばかり読んできた。江戸時代などは剣客ものか捕物帳を除いてほとんど読んでいない。その点、本書は中世史に少し光を当ててくれた本だと思う。中世史は古文書に関する本を読んだくらいだったが、ここにきて、気鋭の学者の本をいくつか読んだことで興味が出てきたのである。

さて、陰謀研究は「加害者(攻撃側)と被害者(防御側)の立場が実際には逆である可能性を探る」という手法が基本であるという(P22)。

「最終的な勝者が全てを予測して状況をコントロールしていたと考えるのは陰謀論の特徴である」(P32)。

「事件によって最大の利益を得たものが真犯人である」という推理テクニックも使う(P55)。

これらの法則を当てはめながら、楽しく謎を確認する形式の本書は格好の大人のための日本中世史入門である。陰謀論については本書の手法が使えるので、現在の状況を見るのにも当然に利用されて良い。

注)剣客ものとは、吉川英治の『宮本武蔵』柴田錬三郎の『眠狂四郎』シリーズとか池波正太郎の『剣客商売』などであり、捕物帳は池波正太郎の『鬼平犯科帳』、久生十蘭の『顎十郎捕物帳』などである。幕末ものは司馬遼太郎の『燃えよ剣』。

#中世史 #呉座勇一

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