『理科系の読書術』(2018)

読書時間

鎌田浩毅『理科系の読書術 インプットからアウトプットまでの28のヒント』中公新書、2018年

著者について

203頁の普通の新書サイズであるが、様々なヒントが「ラベル解読法」(P54)「割り算法」(P108)「バッファー法」(P147)などの著者独自の用語として展開されている。著者は京都大学大学院人間・環境学研究科の教授である。読者術が好きな人である。著者は火山学、地球科学が専門である。一般書の数も多い。著者は学生時代に竹内均氏に私淑したと書いていたから、15分単位の時間管理も見習って明らかに生産性が高いのである。京都の本屋にも当然に詳しい。寺町通の三月書房や一乗寺の恵文社の話が出てくると思わずニヤリとしたくなる。

本書のテーマ

本書は「読書が苦手な人のために、読む技術の「基礎の基礎の基礎」を伝授する入門書である」(Pii)という。それだけにとどまらず、次に理科系の読者にアウトプット優先の読み方が紹介される。私は本を読むとはどういうことかというテーマを考えているが、著者は「一体、自分に必要な本は何だろうか」(Pviii)という根本的な問題を考えているのである。理科系の読書術というタイトルに内容が収まりきれないのは、読書技術に理科系も文科系なく、対象の種類と目的によって効率的に読む仕方が異なるということに過ぎないからである。例えば、理科系の小説の読み方というものがないことを考えれば足りる。

読者術の本質とは何か

第6章まで楽しく確認する作業をしてきて、本質的な問題となる。補章の「読まずに済ませる読者術」は読書術の本質を問うものである。自分が欲しいと思った本を買い続け、しかも明らかに自分が読める以上の本を入手している状況について、著者ははっきりと書いている。「この問題はすべての読者人が経験していながら、見て見ぬふりをしていると言っても過言ではない」(P183)と。こんな正しいことを書いた人はいないかもしれない。そして、本の大量所有にメスを入れ、過去の知識への依存に変革を迫るのだ。ストックからフローへ。フロー型の読書人生の勧めである。

フロー型の読書人生とは何か

著者はトランクルームに保管していた本にカビが生えてしまったことで、本の死蔵を思い知った。フロー型の読書人生のために本を捨てなさいという。自分が今ハンドリングできない以上のものを持つなという。フロー型の読書人生は人生観である。我々は過去の遺産とも言われる情報を処理して自分のシステムを造ってきた。情報は未来に向けてインプットする必要がある。しかも何をインプットすべきかを選択する必要がある。愛着というのも現在の感情である。愛着がある本や稀覯本を除いてほとんどは読み返すことが想定されない本であれば、捨てることで見通しを良くする。必要ならまた買えば良いし、聴き放題とか読み放題のサービスに入っていれば物理的な保管場所は要らない。所有ということに価値を見いだせなくなったことは、ネットで古本を買うことで薄々気がついていたはずだ。BPRを読書に当てはめれば、今、必要な本があれば良いという発想になる。過去はレガシーだ。

「諦める最大の対象は、実は過ぎ去った「過去」なのである」(P200)。

「読書についても、自分の感性で本を選んで、「今、ここで」読みはじめる」(P200)。

「「今、ここで」のふるいに残ったものだけを自分の未来へつなげる。これが本当の意味での読者術の「カスタマイズ」なのである」(P200)と書いて終わる。

自分のスタイルを確立する

このところ、箱を開けて中身を出して箱に戻すという作業を繰り返している。これは著者の指摘であるハンドリングの範囲内で本と向き合うための儀式と考えることにしよう。自分が今、ここで読みたい本を探すことで、自分のライブラリーを整える必要性を感じたのである。今の自分に見合ったライブラリーを作ることが自分の幸福感を増すことになるのだ。ただ、ビジネスの世界に生きているので、まだ、知的生産の道具は捨てられないのである。

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