赤木明登『漆塗師物語』文藝春秋、2006年
結局、僕はこの本を読むことにした。職人とは何か。「保守的」とはどうあるべきか。だいたい、仕事が詰まって忙しくなるたびに本に逃避したくなる。急に根源的な疑問が浮かんだためだ。働き方改革がいわれるなかで、職業の選択とはどうあるべきなのか。子供らもいずれ大人になり職業に就くことになる。どういうことをすると職業選択は上手くいったと言えるのだろうか。そもそも職業とはもはや固定的に捉えることのできないものが現れてきているのではないか。警察という行政サービスも、サイバーセキュリティを扱うとなると、プログラマーやSEが必要になるし、フォレンジックなどは、セキュリティ技術の専門家である。彼らに柔術で被疑者を確保する技術は求めても仕方がない。何しろ相手はサイバー空間の先にいて物理的には対処することができないのだから。
高校の同級生達と去年の秋に同窓会を開いた。皆、色々な職業に就いたし、今も働いている人や、年金生活に入った人がいた。芸術家や職人はいなかった。僕らの職業選択と今の職業選択の違いは何だろうか。環境の変化が激しいことが予測されているということだ。AIによりなくなる職業も出てくると予測されている。僕らの世代は非専門家の大量採用の時代だった。同期が何百人もいる世界が職場だった。
赤木明登氏は25歳で家族を連れて輪島に来て漆塗師となることを決めた。この本は転職の話から始まる。大学を出て編集者になり、職人を選択した。職人になるとは親方に弟子入りすることから始まる。そのためには何になりたいかという強い思いが必要だ。サラリーマンの報酬がなくなるし、将来の保証は何もない世界なのだ。そこに読んでいて爽やかさを感じる。昔は職業選択の自由がなかったが、人々は何らかの職人となっていた。今では逆に職人になることは大変なことだ。サラリーマンという経験不問の職業が幅を利かしているのだ。それとて、この先どうなるか分からない。
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