『英国に就いて』(2015)

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吉田健一『英国に就いて』ちくま学芸文庫、2015年

このエッセイは「象徴」で始まる。

しかし、英国と英国人の象徴に薔薇をもってくる話は結構手厳しいことが言われている。

「たとえば優しい心、あるいは柔軟な心がなければ本当に無慈悲であることも望めないということもある。それは相手の身になることができなければ相手を徹底的に苦しめるわけにはいかないからであって、自分が相手になり切った時に始めてその息の根が止められる立場に置かれる」とかなり辛辣である。

そして、独立問題のスコットランドはどうかというと、

「まだ、スコットランドが独立した王国だった時代に、その王室の紋章は薊(あざみ)で、標語のラテン語は、誰も傷かずには私に触れることは出来ないという意味のものだった。いかにも強国にいじめつけられ続けて自尊心ばかり強くなった小国らしい紋章であり、標語であるが、棘の痛さにかけて薔薇は薊の比ではない」と、なんと的確な表現だろうか。

それで、英国に就いてはどう言っているかというと、

「その薔薇は英国の国花であって、こう書いてくると、英国人にとって薔薇がそういうものであるのが偶然ではないという気がする。もちろん、英国人が薔薇を珍重し、その栽培に力を入れたのはその棘が痛いからではなくて、花がことにヨオロッパの自然の中ではいかにも優しい感じがするものだからであり、それがまた英国の自然に実によく合っている」。

binge drinkingは短時間に酒を大量に飲むことで、いつだったか英国病の一つにあげられていた。そんなに飲むものなのかと思うのだが、自分の感覚で判断してはならないこともある。

「食べものと飲みもの」を読んでいると、「英国には妙な規則があって、確か午前十時半から午後三時、それから午後五時から十一時までの間しかアルコオル飲料を店で飲んではならないことになっている」とあった。もっとも地域によって違いはある。

The alcohol licensing laws of the United Kingdomをみると、1980時代の終わりに11時から23時の通しの営業が認められて(nightclubはもっと遅くまで認められていた)、24時間営業は2005年からだと分かる。

吉田健一(1912-1977)はもちろん世の移り変わりは知らないが、パブの時間を心得ていたことは間違いない。

「お茶の時間」を読んでいると、時間の過ごし方に英国人の特質を見ているようだ。

「英国人には自分の終わりを知ってそれを迎えるという風な一面があって、英国人の老人の多くが男女とも美しいのはその為かとも考えられる」。

「一生の終わりにそうであって、そして一日のうちではお茶の時間に、それでその一日がすんだ気分になれるというのは確かに羨ましいことである」。

ビイルを飲む時間の制限(もっとも家の中ではいつでも飲めた。)がなくなっても、楽しく外で飲める時間帯はあって、いつまでも一日を引きずるわけにはいかない。

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