安東次男『百人一首』新潮文庫、1976年
百人一首に関しては手元に安東次男の『百人一首』のみを残している。この本は「百人秀歌」を巻頭に据え、「百首通見ー小倉百人一首全評釈」からなる。
カルタに夢中になっているときは歌人については興味がなかった。巻末には作者略伝がある。朧谷先生のお話を聴いているうち、自然と結び付けられるようになった。
「百人秀歌には随所に絶妙な合せがある。権中納言定頼の「朝ぼらけ」の歌に左京大夫道雅の「今はただ」を以てした合せなど、源氏物語の宇治十帖余聞ともいうべき恋の世界を現前させてくれて、詩歌の醍醐味はここにあるとさえ思われてくるが、これを百人一首の配列のように道雅の歌を先にして定頼の歌をそれに合わせたのでは、まったくの無味になってしまう。並べてありさえすればどちらが先でもよいというわけにはゆかないのである」。卓見というべきであろう。
67 朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々のあじろ木
68 今はただ思い絶えなむとばかりを人づてならでいふよしもがな
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