吉田健一『汽車旅の酒』中公文庫、2015年、2021年7刷
書誌情報
「本書は、著者の鉄道旅行とそれにまつわる酒・食のエッセイを独自に編集し、短編小説二編「東北本線」「道端」、観世栄夫「金沢でのこと」(『吉田健一著作集』20巻月報・1980年5月を併せて収録したものである」(編集付記)。汽車旅エッセイの集成である。長谷川郁夫氏が解説を書いている。
観世栄夫(ひでお)氏の巻末エッセイ「金沢でのこと」と長谷川郁夫氏の解説「胃袋は笑い、夢を見る」を読む。
観世栄夫氏の「金沢でのこと」は河上徹太郎、吉田健一、観世栄夫、辻留の若主人の雛留君とあるのは辻義一(よしかず)氏の4人で金沢から灘までの旅行のうち金沢までを記してものである。途中で『金沢』(河出書房新社、1973年)が長々と引用され、「金沢でのこと」と『金沢』がオーバーラップしてくる。出てくる名前で金城楼がこの時のコースに入ってなかったのは残念である。
長谷川郁夫氏の解説はラストがいい。
「旅するこころはいつも華やぐ。幻想の入り口に立つからだろう。なぜ毎年、おなじ場所を訪れたのか。吉田さんの旅は未知なるものの発見ではなかった。朝に夕に馴染んだ光を浴びて、明るい幻想にとっぷりと浸る。旅することは、ふたたび生きること。飲食するのは愛すること、美を感じることであったのは、名篇『金沢』を繙けば判然とする。精神の貴族? いや、天晴れな蕩児の貫禄であったと記すべきだろう」(p.231)。
『金沢』をまた読みたくなった。
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